スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編14話「白昼夢」

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ハマり編14話「白昼夢」

 

「レファラさああああんん……」

スイカの嗚咽が辺りに響いた。

 

嗚咽

 

途中、気分が盛り上がってしまい、まるで世界の中心にいるかのような気合いでレファラの名前を連呼した。絶叫版、哀願版など、思いつくあらゆるパターンで呼んでみるノリノリスイカだった。

 

ひとしきり叫び終わってみると、スイカは眠くなってきた。今まで超能力を限界近くまで使っていたこともあり、疲労していた。まずい、このまま眠ってしまってはまずい。そうわかっていても、スイカは眠気に逆らえなかった。

 

ふぉぉぉん……。

 

超能力で方向をコントロールされていた荷物が、スイカのコントロールを逃れて、またもやあらぬ方向に漂い始めていた。

 

半分眠りに落ちていたスイカは、荷物がどこかに行ってしまう予感にハッと目を覚ました。荷物はまだそこにあった。荷物がどこかに漂っていってしまう夢を見ていたらしい。スイカは、どこまでが夢で、どこからが現実なのか自分でもわからなくなり始めていた。

 

ざわざわざわ……

何を言っているのか、聞き取れるような聞き取れないようなざわめきが聞こえた。具体的な種族まではスイカにはわからなかったが、今まで通りすがりの者すらいなかったこの惑星に、突如生き物が現れた。それも団体で。

 

団体は、ほぼ全員が似たような服を着ていた。同じような背格好、同じような服。ひとりひとりに注目すると見た目に個体差があり、それぞれ似てはいないのだが、遠くから見ると雰囲気が似ている。生き物自体を見慣れていないスイカには、全員の見分けがつかなかった。

 

団体は和やかに会話しながら、この時代のだいたいの者が持っている、だいたい何でもできる端末「EVY」で写真を撮りあったりしていた。

 

「すみませぬ」

スイカは、団体に向かって声をかけた。

団体は、一斉にスイカのほうを向いた。

 

「ハイウェイがどこにあるか、ご存知ありませぬか」

スイカがそう言うと、団体の生き物たちは、お互いに顔を見合わせた。

静かなざわめきが、団体の中を通りすぎた。

そして1名が指をさした。団体のほかの者もそれにならった。

 

ハイウェイはあちらです

 

団体の全員が同じ方向を指さしていた。

スイカの背後を示しているように見えた。

スイカは、その方向を見た。

 

気づくとスイカは地面に寝ていた。

「私はいったい……。夢を見ていたのでしょうか」

そうひとりごとを言うと、辺りを見渡した。

荷物が見当たらない。

「荷物! どこに行ったのです荷物! 出てきなされ!」

 

気づくとスイカは帽子をかぶっていた。

先ほどの団体の中の誰かがスイカにかぶせたものだ。

写真を撮るために自分の帽子をスイカの上に載せたのだった。

帽子をかぶせられる瞬間、「変わった形の帽子だな」と思ったことをスイカは思いだした。

 

「じゃあ撮るよー」

団体の中の誰かが言った。

今度はスイカにも言葉がハッキリ聞き取れた。

「はい、チー、」

 

写真を撮ろう

 

 

「ズ」

スイカは謎の言葉をつぶやきながら目を覚ました。

見回しても、辺りには誰もいなかった。

「な、何でしょうか、これは……」

 

夢だったらしい。スイカはそう結論づけた。

夢を見ている夢を見ている夢を見ていたと。

このままではまずい。スイカは思った。

 

夢の中の夢の中の夢、合わせ鏡の中に映る自分を見ているような、入れ子細工の夢を延々見続ける予感にスイカは震えた。震えながら辺りを見回した。

 

「ハッ、荷物!」

 

荷物が標識に引っかかっていた。

やや意識がはっきりしてきたスイカは、超能力を使って標識から荷物を引き離した。

トングマシーンについている時計には2時46分と表示されていた。

 

「あぶのうござる!」

スイカは思わず叫んでいた。確か3時までに配達を終えないといけなかったはずだ。

 

配達のことを思いだしたスイカは、後ろを振り返った。団体客が指さしていた方向がそっちだった、ような気がしたのである。

 

そこには、宙に浮いた道路、ハイウェイがあった。

 

スイカは今まで「ハイウェイ」というものを見たことがなかったが、宙に浮いている道路が「ハイウェイ」なるものだということはわかった。なぜなら、そう書いてある小さな看板がスイカの近くに立っていたからだ。

 

「なんと! 夢の中の団体さん、グッジョブです!」

スイカはここにはいない謎の団体さんを褒めそやし、口笛のようなものをぴーひょろと頼りなく吹いてみたあと、荷物とともにハイウェイ(の下)に向かった。

 

トングマシーンに通信が入った。レファラだ。

「ごめんごめんスイカくん。足りない宇宙船のパーツを持ってる誰かを探してたらこんな時間」

「レファラさん! それでパーツは見つかったのでしょうか?」

 

「うん、持ってる人いたからこの星に届けてもらうことにした。ちょうど宇宙空間で仕事してる途中だったみたいで、パーツも今持ってるからすぐ来てくれるって」

「おお、それは何よりです」

「スイカくんは? えーと、ちょっと待ってね、位置情報見るから」

何やらガサゴソと音を立てたあと、レファラは言った。

 

「ハイウェイの先だね。次を右に曲がったらすぐなんだけど、あ、そっちじゃないよスイカくん」

「違いましたか? どちらでしょうか?」

「えーと、これ見えるかな、こういうの」

 

レファラは衛星から撮ったとおぼしき写真を、トングマシーンについた小さなディスプレイに表示させた。写真に写っていたのは、屋根だった。

 

屋根

 

「上から撮ってるからちょっとわかりにくいかもしれないけど、こういう色の変わった屋根が見えない?」

「むむっ……」

 

スイカは目を覚ました。

いつの間にか雨が降っていた。

全身に雨を受けながら、スイカは眠りたい気持ちに抗えずにいた。

 

眠い

 

(もう……眠ってしまいたい……、何もかも忘れて……)

崩れるように、勢いよく地面に向かって4分の1回転した。

スイカの視界は闇に包まれた。

 

スイカは目を覚ました。

目の前には変わった形の屋根のついた建物と、それを写真に撮ろうとする団体がいた。雨はいつの間にかやんでいた。

 

「ああ、さっき私がかぶせられた帽子は、あの屋根の形をしていたのですね」

スイカはなぜか納得してつぶやいた。

「何を言ってるの、スイカくん」

レファラの声がした。

 

「ハッ、レファラさん! わたくし、またもや眠っておりましたか?」

「えっ、寝てたの? そうか、超能力って使い続けるとものすごく消耗するのかな?」

「そうかもしれませぬ。私も今までここまで連続で使い続けたことがありませぬゆえ、気づきませんでしたが」

スイカはそう答えると、周りを見渡した。

 

先ほどスイカの目の前で写真を撮っていた団体が、やや遠くのほうに見える。楽しそうな話し声が小さく聞こえていた。その団体さんもやがて去り、辺りは静かになった。

 

そしてスイカのそばには、ふわふわと漂い始めた荷物があった。荷物はトングがついたマシーンに抱えられていた。トングマシーンに表示された時刻は2時52分。

 

「まずいです、時間がございませぬ!」

「落ちついて、スイカくん。その屋根の隣の家がそうだから」

レファラにそう言われてよく見ると、変わった形の屋根の建物の隣に、もう一軒家が建っていた。

 

「その変わった屋根の建物は記念館なんだよ。さっき、この通信機能使って学生さんたちとちょっと話したんだけど、スイカくんひょっとして転がりながら寝てた?」

「……」

 

寝ていたのだろうか。

そうかもしれない。

自分が寝ていたのかどうか、寝ながら転がっていたのかどうか、スイカにはよくわからなかった。

レファラは言葉を続けた。

 

「スイカくんがかぶせられた帽子、そこのお土産屋さんで買ったんだって言ってたよ。ほかの星から修学旅行に来たんだって。今どき制服がある学校ってのも珍しいんだけど、このシーズンに修学旅行するってのも珍しいよね。……っていう話をさっきまでしてたんだけど、スイカくん覚えてない?」

「!!」

スイカは衝撃を受けた。

まったく記憶にない。

 

「その会話はまったく覚えておりませぬ! おりませぬが……ゆ、夢ではなかったのですか? というかレファラさん、レファラさんはどこまでが現実のレファラさんですか?」

「どこまでって? ずっと現実だと思うけど……」

 

「雨は降りましたか?」

「降ったよ。一瞬ね。通り雨っぽかったよね。そうだった、そういえば降ったね。トングマシーンは防水機能ついてるからいいけど、スイカくんは雨に濡れて大丈夫?」

「私は平気です。もうすっかりスイカ表皮はつるりとドライです」

「そうか、それならいいけど。この星、空の機嫌が悪いこと多くて難しいね」

「ずっと現実だったのですか……!」

スイカは改めて驚愕した。

 

夢の中の奇妙な出来事だと思い込んでいたことが、ずっと現実だった。

 

団体さんはレファラの言うように修学旅行に来た学生たちなのであろうし、スイカがハイウェイがどこにあるか尋ねたことも現実だったのであろう。

 

学生たちから見れば、なぜ旅行中の学生に道を尋ねるのかという疑問もあっただろうし、スイカの後ろに見えている、むしろスイカが背負っているかのように見えるハイウェイの場所をなぜわざわざ尋ねるのかという疑問も感じたであろう。ざわざわした雰囲気になったのもまた当然なのかもしれなかった。

 

そんな奇妙なスイカを面白がり、帽子をかぶせて一緒に記念撮影するノリノリ学生たちが一部にいたこともまた現実なのであろう。

 

おそらくスイカの見た夢の中のような光景すべてが現実なのであろうが、今はそれどころではなかった。スイカはトングマシーンのディスプレイを見た。

 

時刻は2時55分。

 

「あとで検証しよう、スイカくんの現実とあたしの現実。今は配達をお願いしたい。がんばってスイカくん、あとちょっと」

レファラはスイカを励ました。

「そうですね、寝ぼけている場合ではございませんでした」

スイカはそう言うと、気を引き締め直した。

 

スイカは超能力で荷物が漂う方向をコントロールしながら、変わった屋根の建物、何かの記念館……の隣の家の玄関の前まで、ツツーッとすべって移動した。玄関には表札が出ていなかった。防犯のためだろう。だが、レファラによると、ここが配達の目的地なのだ。

 

スイカはその家のインターフォンのボタンを超能力で押した。

家の中でチャイムが鳴ったのがスイカにも聞こえた。

「はい。レファラさんのお使いかな?」

インターフォンに出た者は、スイカが何か言う前にそう問いかけてきた。

 

インターフォン

 

トングマシーンについたディスプレイからレファラの声がした。

「そうです。トレリスさん、毎度ありがとうございます、『Dm』です。そのスイカに見えるスイカは、うちの配達を手伝ってくださっている有志のスイカさんです。怪しいものではありませんのでご安心ください。お荷物をお届けにあがりました」

にっこりしながら言っているのが、通信機越しにスイカにも伝わってきた。

 

ガチャリ。

家のドアのロックが外れる音がした。

「スイカのように見えるキミ、すまないが中に荷物を運んでくれたまえ」

インターフォンからトレリスの声が聞こえた。

スイカは、荷物を抱えたトングマシーンとともに家の中に入った。

 

(ハマり編15話につづく)