スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編13話「消失」

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ハマり編13話「消失」

 

呆然

向こう岸に渡ったスイカは呆然とした。

どうしたものか考えたが、ラチが明かなかった。

 

配達のために川を2段ジャンプで渡ったというのに、練習として跳んだせいで、肝心の荷物を持っていなかった。

 

スイカが着地した場所は、川の近くにある建物の屋上だった。

時計塔のような建物だったが、スイカは時計塔を知らなかった。

 

もしかしたら誰かの家なのかもしれない、すぐに出ていかなくてはと思いつつ、スイカは川の方向を振り返った。凍った川の上に呆然と立つレファラの姿が小さく見えた。

スイカはレファラに向かって呼びかけた。優れた聴覚を持つレファラなら聞き取れるかもしれない、そう考えたのだ。

 

「レファラさあん、私どうしたらいいでしょうかあ」

レファラは間延びしたスイカの声が聞き取れたらしく、返事をした。

「……!」

しかし、スイカの聴覚はレファラほどよくなかった。

声は聞こえたが、レファラが何を言っているのかまでは聞き取れなかった。

 

どうしたものか。

スイカは屋上で、右へゴロゴロ、左へゴロゴロ転がった。

 

転がっているうちに、凍った川の上にいたレファラが、どこかに行ってすぐに戻ってきたのが見えた。戻ってきたときには、レファラは大きな荷物を抱えていた。自分の宇宙船に戻り、すでに配送用に梱包されていた商品を持ってきたようだ。スイカが配達するはずだった商品だ。

 

レファラは、凍った川の上を荷物を持ったまま歩こうとして、つるりつるりとすべり始めた。

 

「ああっ! レファラさん、危ない……! ムリです、その靴では!」

スイカは、遠くから思わず声を漏らした。

そのとき、レファラから離れた場所にいるスイカにも、はっきり声が聞こえた。

 

「レファラ、よけろ!」

 

サリーだ。

言われたレファラは、つるつる滑りながらもサリーの前から荷物ごと移動しようとして、何かに気づいたようだった。荷物から手を離して、サリーの前から自分だけ体を避けた。

 

サリーの前に、荷物だけが残された。

とは言っても、サリーと荷物のあいだにも距離があった。凍った川の上でつるつると転ばないよう危なっかしくバランスを取りながら、サリーもまた横に移動して道を空けた。

 

レファラもサリーも脇によけ、梱包された商品だけが取り残された。そこへ、おそらくレファラの宇宙船から出てきたのであろう何かが進みでた。

 

「あっ、あれは……!」

スイカは遠くの屋上から叫んだ。

「あれは……いったい……、何でしょうか?」

最後は疑問形で終わった。

 

何なのかわからぬ機械のようなそれは、スイカのいる場所からはとても小さく見えた。小さすぎてよくわからない。しかし、大きく見えていたとしても、おそらく何なのかよくわからなかっただろう。そうスイカは思った。

 

「オスナ・オスナキ」のことを思いだしたからだ。スイカには、「オスナ・オスナキ」を見て「オスナ・オスナキ」だとわかるとはとても思えなかった。レファラに「オスナ・オスナキ」だと言われてからも「オスナ・オスナキ」とは何なのかわからなかったくらいだ。

 

今回のこれも、レファラの店にある何かしらの機械なのだろうとスイカは思った。店の商品をそこまで酷使していいのかという疑問は、スイカは特に感じなかった。「店」というものについてよく知らなかったからだ。

 

レファラの店「Dm(ディー・マイナー)」は中古品売買をメインの業務としていた。新品の商品を扱っているわけではない。中古品ならばバンバン使い倒していいのか、店主みずからが商品を使ってしまうのはどうなのか……とも、スイカは思わなかった。「店」についての知識が皆無だからだ。

 

レファラの宇宙船のボディには、複数の星の資格の種類や認可の番号が書かれていた。資格の内容は売買に関するもの、中古品売買に関するもの、そしてなぜか危険物に関するものなど、さまざまだった。そういう資格について、レファラが商売をするすべての星のぶん書かれていた。

 

とにかく「Dm」は宇宙における売買、もしくは中古品売買に関する決まりは守っているということのようだ。だからと言って店の商品をバリバリ使っていいのかどうかという点は不明だが、レファラにとっては、「何に使うかわからない、使途不明な商品の特徴をつかむため」という意味もあるのかもしれない。ないのかもしれない。

 

スイカが遠くから見守っているうちに、荷物に変化が起きていた。

荷物は、レファラの店から出てきた謎の機械にガッチリとつかまれた。そして、ふわふわと浮き始めた。

「おおっ! 浮きました!」

スイカが感嘆の声を上げた。

 

こんな機械があるのならスイカが2段ジャンプをする必要もなかったのだが、スイカはそのことについても考えなかった。なぜなら、スイカは2段ジャンプをしたかったからだ。2段ジャンプをしないなどという選択肢は、スイカの中に存在しなかった。

 

しかし、2段ジャンプの必要性がなかったのは、そこまでだった。

 

ふわふわと、機械についているトングのような部位につかまれて浮いていた荷物は、川を渡る方向に行きかけたあと、そのままあさっての方向に漂い始めた。

 

「ああっ! どこへ行くのですか!」

スイカはそう言うと、荷物を追いかけるべく建物の屋上からバビョーンと跳びはねた。跳びはねながら言った。

 

「お騒がせしました! わたくしは立ち去りますゆえ!」

誰に言っているのかスイカにもよくわからなかったが、2段ジャンプの着地時の「ドスン音」をわびたつもりだった。川っぺりの建物の屋上からバビョーンと飛んだスイカは、川の堤防にスタッと着地した。

 

荷物は漂い続けていた。

ふわふわと、風に乗っているのか、スイカから離れて飛んでいく。

「お待ちなさい荷物! 待つでござる!」

 

待つでござる

 

堤防の上が凍っているせいで、つるり、つるりとすべりながら、バビョーン、バビョーンと飛びはねながら、荷物を追いかけながら呼びかけた。スイカにしては同時進行のタスクが多すぎた。

荷物は宙をフラフラふわふわ漂いつつも川を渡ってはいた。堤防の上でつるつるバビョンバビョンと荷物を追いかけていたスイカは、堤防に到達した荷物に、横から体当たりした。

 

つるりバビョーンドスリつるりバビョーンドスリ

 

荷物が漂う方向をコントロールするために体当たりをした。スイカは多すぎるタスクのせいで考えるのが面倒になり、とにかくひたすら、すべりながらも体当たりをした。

 

「おーい、聞こえる? スイカくーん」

レファラの声がした。声がしてからもしばらくスイカはドスドス、つるりつるりバビョンバビョンと無心で体当たりを続けていたが、体当たりに飽きたところでようやくレファラの声に気づいた。

 

「ハッ、レファラさん! 私はいったい何をしていたのでしょうか。レファラさん、私はこれからいったいどうしたらよいのでしょうか」

そんなスイカのお悩み相談に、レファラは答えた。

 

「スイカくんは体当たりを続けて。梱包材使ってるから、スイカくんが体当たりしたくらいじゃ荷物に傷はつかないだろうし。ちょっとずれちゃったね。荷物が重すぎてコントロール不能になってるんだと思うんだけど」

 

まさかの「そのまま体当たりを続けろ」指示に、スイカはさらに無言でつるりつるりバビョンバビョン&ドスリドスリを続けた。レファラの声は、荷物をつかんでいる機械から聞こえていた。トングのような物で荷物をつかんでいる機械だ。

 

「その先の方向の指示を出そうと思ったんだけど、ちょっと待ってね。サリーくんのほうで、宇宙船の故障原因がわかって直せそうではあるんだけど、足りないパーツがあるって話になってて、ちょっと連絡取ったりしなきゃいけないんだ。スイカくんは、荷物を誘導しながらとにかく看板を目指して」

そこで通信が途切れた。

 

スイカは少しだけ不安になった。

事前にレファラから見せられた地図を思いだそうとして思いだせず、レファラとの会話だけを思いだした。

 

右へ行って左へ行って、ハイウェイの下をくぐって右。

 

「右です、右! 看板からです、確かそうです、看板のあるところを右です!」

 

右折

 

スイカは思いだしたことをそのまま言葉にしながら、つるりつるりとすべりつつ荷物に体当たりをかましつつ、周囲をチラリと見渡した。さきほどスイカが着地した建物の付近に、大きな看板が見えた。

 

「あちらです! あちらに行くのです荷物!」

 

スイカは大きな看板を目指して、荷物への体当たりを続けた。

 

トングのようなもので荷物をつかんだまま浮いている、トングマシーンの通信が突然オンになった。

「ごめんごめん忘れてた、地図出しておくね」

そしてまた通信がオフになった。

 

レファラの言葉通り、通信時レファラが映っていて、声もそこから聞こえていた小さなディスプレイに地図が表示された。ディスプレイを見て、わかるようなわからないような気持ちになったあと、スイカは気づいた。

 

トングマシーンのディスプレイの上のほうに時刻が表示されていた。おそらく現在時刻であろう。スイカはそう推測した。

表示されている時刻は、2時38分。

 

時刻

 

3時には配達を終えなくてはいけない。確かそういう注文なのだとレファラが言っていた。スイカは時刻を見て、そのことを思いだした。

 

「じ、時間がございませぬ! ええい荷物よ! 看板をめざして一緒にがんばりましょう!」

 

よくわからぬ叱咤激励を荷物にしたスイカは、無意識に超能力を発動した。

「さいこきねしす」だ。

荷物は、先ほどまでと違って、プルプルとではあるが意思を持ったかのように看板の方向に進み始めた。

 

「ハッ、そうでした、わたくし超能力が使えたのでした! このまま看板の方向に行くがよい、荷物よ!」

 

叱咤激励をした次の瞬間には上から目線で命令をくだす、荷物との距離感がよくわかっていないスイカではあったが、距離感はおかしくとも超能力で荷物が漂う方向をコントロールすることはできた。

 

看板にたどりついた。

「こ、ここを右に……ぐふっ、右に曲がるのです!」

むせただけで、息以外のものを特に何も吐いてはいなかったが、とにかくスイカは荷物が進む方向を変えた。

しかし、スイカから見えていた看板は、裏側だった。

 

看板の裏側

 

スイカは超能力で荷物が進む方向をコントロールできはしたが、容易にできたわけではなかった。えっちらおっちら、あちらにフラフラ、こちらにぶつかりそうになってがんばってひょいと避け……、そんなふうに回り道をしたため、レファラが想定していたものとは違うルートで看板にたどりついたのだった。

 

「右に曲がったら、次を左です!」

 

スイカはそんなことには気づきもせず、荷物をコントロールし続けた。すでに集中力が限界を迎えようとしていた。しかし、3時までに目的の場所にたどりつかなくてはならない、たどりつけばこの超能力地獄から解放される、その思いだけがスイカをつき動かしていた。

 

トングマシーンにレファラが表示した地図は、方向が固定されていた。レファラの想定ルートどおりなら見やすかったのかもしれないが、スイカは想定外のルートを突き進んでいた。

地図はとても見づらかった。

その上、こまめに地図を見る余裕などスイカにはなかった。超能力で荷物をコントロールすることだけで精一杯だった。

 

「次は……、ハイウェイの、下を……」

スイカの言葉が小さくなり、消えた。

 

ハイウェイはなかった。

 

下をくぐるべきハイウェイは、ここにはなかった。ハイウェイというものがどういったものかスイカは知らなかったが、知らないながらも、ハイウェイがないことには気づいた。なにしろ、くぐれそうなもの自体がここにはなかった。

 

「な、なぜ……! レファラさん、ハイウェイが紛失しました! ハイウェイがありませぬ! レファラさん!」

 

スイカはトングマシーンに呼びかけた。

サリーがここにいたら「『紛失』ではなく『消失』ではないか」とツッコんでいただろうが、問題はそこではなかった。ハイウェイが周囲に見当たらないことが問題なのだ。

 

レファラの返事はない。

レファラは宇宙船の修理のために必要なパーツを取り寄せるべく、誰かと連絡を取ると言っていた。スイカのほうに注意が向いていないのであろう。

 

「レファラさああああああん!」

 

スイカの悲痛な叫びが、辺りに響いた。

 

消失に困惑

 

(ハマり編14話につづく)