スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編12話「詰み」

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ハマり編12話「詰み」

 

レファラとスイカが宇宙船で話していると、通信機に通信が入った。サリーからだった。作っていた物が完成したらしい。

 

「俺の宇宙船まで取りに来てくれねえか? レファラなら運べると思う」

 

その言葉通り、サリーのお手製アイテムはレファラの手によって軽々と運ばれた。

 

凍った川の上

 

空から降っていた氷は止んでいた。

 

「レファラさんは力持ちさんなのですね」

レファラが凍った川の上にサリーお手製アイテムを設置していると、その様子をゆらゆらしながら眺めていたスイカが言った。

 

「まあね。ふだんから配送も1人でやってるからね。宇宙船で運ぶと言っても限度があるし、嫌でもマッスルフルになるよね」

「まっするふる」

またもや何かがおかしい表現のような気がしたのか、スイカは繰り返した。

 

サリーが作っていた物は、これまたジャンプ台だった。

 

「川の真ん中に配置して、スイカがもう一段ジャンプすりゃ、向こう岸にたどり着けるんじゃねえか?」

サリーはそう言っていた。当のサリーは、故障原因を探るためにレファラの宇宙船に戻っていた。

 

「しかし、それにしても、なんと豪華な……! 連続で2回もジャンプ台でジャンプできる日が来ようとは……!」

サリーの言葉を思いだしたスイカは、謎の感動にうち震えていた。

「格子をジャンプ台にアレンジかあ……。ほかの格子もアレンジしてくれないかなあ、サリーくん……」

物悲しい表情でレファラが言った。

 

このサリーお手製ジャンプ台は、レファラの店の在庫の「格子」を使ったアイテムだった。レファラはスイカが使ったあとのジャンプ台を、これも中古品として売る気満々らしい。さらにほかの格子も、違うアイテムに作り替えてほしいというのがレファラの意向のようだ。

 

「そもそもこの格子はいったい何に使うものなのですか?」

スイカがレファラに尋ねた。レファラはジャンプ台の設置を終え、立ちあがって答えた。

「わからない。格子の作り手に聞いてみて」

スイカは、凍った川の上でつるつるすべりそうになりながらも、設置が終わったジャンプ台に飛び乗った。そしてさらに質問を重ねた。

「どこのどなたが作っていらっしゃるのでしょうか?」

 

レファラは指で川の向こうを示した。

 

指し示す

 

「これから会えるよ、うまくいけばね」

「急ぎのお客様は、謎の格子職人でしたか!」

「そう。2時半から3時までのあいだに、この商品を届けてほしいって。住所はここ」

レファラは自分の端末「EVY」の画面を見せた。画面には地図と時刻が表示されていた。


現在時刻は、2時30分。

 

目的地の家には、「トレリス」と書かれていた。トレリスというのが、注文主の名前なのであろう。

 

「ふむふむ。わかりました。向こう岸についたのちは、わたくしの超能力で……!」

「ん? 超能力?」

「はい、わたくし、こう見えて『さいこきねしす』の使い手なのですよ!」

「……うん。じゃあ、最初から超能力でビューンとひとっとび」

「そういったことはできません」

「で、できないの?」

「できません!」

どこから来るのかわからぬ自信に満ちあふれながら、妙にきっぱりとスイカは言い切った。

 

「そうおっしゃるレファラさんも、なにゆえご自分で向こう岸に行かれないのでしょうか? なるほどここからだと橋がある場所は遠いようですが、川が凍っている今、川の上を歩けば、楽に向こう岸にいけるのではないでしょうか?」

「そうなんだよねえ。そうできたらいいんだけどねえ。まあこれを見てよ、スイカくん」

レファラは足を持ち上げて、スイカに向けた。スイカは困惑した。

 

「む……むむっ?」

「ん? あ、ごめん。スイカくん、靴底見たの初めて?」

「はい。靴自体、わたくし履いたことがございませんもので、靴底を拝見したのもこれが初めてです。生まれて初めての靴底です」

「そうかあ。ごめんごめん、いきなり靴底見せたりして。この靴、スパイクがついててさあ。このスパイクで地面を噛んで、滑らないようになってる靴なんだよね」

 

「むむっ……『すぱいく』なるものがついているのなら、凍った地面にうってつけなのではありませぬか」

「と、思うでしょ? 違うんだよねえ。あたし、寒いとこ用の靴は、これしか持ってなくてさあ。ふだんの靴は、足の爪が外に出せるようになってるんだ」

「はい……。爪が」

スイカは、何が何やら、ちんぷんかんぷんだという気持ちをまったく隠さない表情で相づちを打った。

レファラは、そんなスイカに説明を試みた。

 

「えーと。あたしたちの種族は、爪がものすごく長いの。長くて曲がってて。なんでかって言うと、爪の先にまで血管とか神経が通ってるから」

「おお、そうなのですか。それはそれは」

「サリーくんとかは違うんだよね。サリーくんたちは、まったく神経とかが通ってないわけじゃないらしいけど、爪の先まで通ってるわけじゃないんだって」

「ふむふむ。ふむぅ」

「だから、爪を切れる。ということを前に知って、驚いた。あたしたちは爪を切れないんだ。痛いから」

「ほう、ほう。なるほど、なるほど。そうなのですか」

もはや相づちを打つマシーンのようになっていたスイカは、ノリノリで相づちを打った。相づちマシーンスイカは、相づちだけは立派だった。しかしスイカがレファラの話をちゃんと聞いているのかどうかは、誰にもわからなかった。

 

レファラは、そんなスイカの態度にめげずに説明を続けた。

「でも爪を切れない代わりに、爪で地面をこう……つかむ? そんな感じで踏んばって歩くことができる。あたしたちは足があまり強い種族じゃないから、爪で足を補助してる面が大きいんだ。重いもの持ってる時とかは特に大事、踏んばり大事」

「むむっ。その踏んばりが、その靴だときかないということですか?」

相づちマシーンから脱したスイカが、レファラに尋ねた。

スイカは話を一応聞いていたようだ。

 

「そう。つるつるすべっちゃって。スイカくんたちが来る前に、ここら辺まで商品を運んではみたんだよ。でも無理だった。靴の中で足踏んばってたら靴が破けそうになったくらいで、全然踏んばれない。この格子ジャンプ台はそこまで重くないおかげで、この靴でも運べたけど」

「いつもの靴に替えることはできないのですか?」

「いつもの靴かあ……、試してみたことはないけど……。爪に血管とか神経が通ってたりするし、氷の上で踏んばってたら凍傷になると思う」

「なるほど……そういうことでしたか。では私が頑張らなくてはなりませんね!」

 

疑問が晴れ、ド晴れやかな笑顔でスイカは言った。スイカにはレファラを責めるような気持ちは特になく、好奇心から聞いていただけだった。その好奇心からの質問に答えるかどうかはレファラの気持ちひとつにかかっていたが、今回は答えることにしたようだ。

 

レファラは配達についての説明を続けた。

 

地図

 

「向こう岸まで渡っちゃえば、すぐだから。向こう岸についたら、看板のあるポイントを目指して。かなり大きい看板だから、どこに着地してもわかると思う。看板のあるT字路を右に行って、その先の十字路を左に曲がって、ハイウェイの下をくぐって、もう一回右に曲がればすぐ」

 

「すぐ」というわりに意外とグネグネしたルートだったが、スイカは自信満々に答えた。

 

「わかりました! 右に行って右ですね!」

「惜しい! 右に行って左に行って右だよ!」

「右に行って左に行って下を通って右ですか!」

「えーと……。あ、あってる。看板のとこを右に行って、左に行って、ハイウェイの下をくぐったら右」

 

レファラは「EVY」の画面から流れるナビ音声を聞いて確認しながら答えた。「道案内を『右』『左』でやって大丈夫か問題」がスイカの行く末に大きく横たわっているのだが、このときのレファラとスイカはそんなことには気づきもしなかった。

 

「1回練習してみる?」

「!! 練習できるのですか! それはぜひ、やらせていただきたくござる!」

レファラの問いに、スイカは興奮気味に答えた。スイカは1日に2回もジャンプ台でジャンプできるだけでも豪華な日だと思っていたというのに、さらに練習として倍々ジャンプできるというのだ。こんなチャンスは、たぶん2度とない。

 

「もともとこれを使おうと思ったんだよ」

レファラは、謎のマシーンをスイカに見せた。小型のフォークリフトにも見えるが、小型のブルドーザーにも見える、正体不明のマシーンだった。

「これは何でしょうか?」

「オスナ・オスナキ」

「『オスナ・オスナキ』とは何に使うものなのでしょうか?」

「わからない。あたしも中古品として買い取っただけだし。元の持ち主が『オスナ・オスナキ』としか言わなかったのと、何だかよくわからないものはこれだけじゃなかったせいで、聞きそびれちゃって」

 

「ほうほう。その『オスナ・オスナキ』はどういった使い方をするのでしょうか」

「物とかを押す機械だよ。たぶんそういうことだと思う。使う人は、『押すなよ押すなよ』って言いながら使うみたい。その辺はよくわからないけど。『押すな』って言わなくても使えるし」

 

レファラは、荷物のみを「オスナ・オスナキ」で押して、ジャンプ台でジャンプさせるつもりだったようだ。サリーはこの場にいなかったが、いたら確実に言っていたであろう、「無理だろ」と。そんな無理計画ではあるものの、スイカは己が加わることで成功するような、根拠のない予感がしていた。

 

「動いてるとこ動画に撮ってもいい?」

「はい! 動画とはロシュさんが日記として送ってきた、ああいうものですね! わたくしも動画デビューできるのですね」

 

よくわからない感動にスイカはプルプルした。レファラが動画を撮る目的は、動いているスイカを撮るためではなく、「オスナ・オスナキ」が稼働しているところを動画に撮って、商品の説明として使うためだった。

 

なにしろ、「オスナ・オスナキ」と言われても、どう使えるものなのか客はまったくイメージがわかない。商品の宣伝用動画をこの機に撮りたいレファラであった。しかしスイカにとってはそんなことはどうでもよかった。とにかく動画デビューに変わりはない。

 

「じゃあ、行くよ。準備いいかな?」

「はい! 準備OKです!」

そもそも練習として飛んでみるだけなので、スイカがする準備などなかったが、心構えとしてはいつでもOKのスイカだった。

 

レファラが「オスナ・オスナキ」のエンジンをかけて、起動した。そして何やら声で「オスナ・オスナキ」に指示を出すと、一歩後ろに下がった。

 

「オスナ・オスナキ」はスピードを上げつつ、スイカを押した。

 

グイグイ押す

 

スイカは「オスナ・オスナキ」に押され、すさまじいスピードで凍った地面の上を滑りはじめた。

そして、

 

ずばっ!

 

スイカは、まずひとつめのジャンプ台でジャンプした。

宙に浮いたスイカは、空中で体の向きを若干調整して、ふたつめのジャンプ台に着地した。

 

ジャンプ!

 

がっしゃん!

 

音を立てて、サリーお手製ジャンプ台が機能を果たした。

 

バビョーン!

 

そんないつも通りのふざけた音を何となく感じさせながら、スイカは宙を飛んだ。

 

ずっしゃああん!

 

それから川を超えた場所に着地した。成功だ。

 

「はあ、はあ、はぁぁぁぁ……!」

 

2段ジャンプにスイカは興奮し、呼吸を荒げていた。

そして落ちついてきたところで、気づいた。

 

どうやってここからレファラの元に戻るのだろうか?

 

おまけに、練習気分で跳んだため、肝心の配達すべき荷物を持っていない。

 

サリーがここにいたら、おそらく言っていたであろう、「詰んだな」と。

詰みスイカは、ここからどうしたものか呆然と考えた。

 

詰んだ

 

(ハマり編13話につづく)