スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編11話「秘密」

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ハマり編11話「秘密」

 

レファラはサリーに体ごと向き直り、真顔で言った。

「下取りはできません」

「えっ」

 

向き直るレファラ

 

 

「下取り」という言葉を出しただけで、レファラの態度が硬化した......サリーにはそう感じられた。

 

「えーと……前に下取りしてもらったと思うんだけど。もう今はやってねえってことか?」

「そうです」

硬い表情でうなずくレファラに、スイカが横から尋ねた。

「なぜですか?『もう下取りなんてまっぴらよ!』という、何かご不満があるのでしょうか?」

 

レファラはスイカのほうをチラリと見たあと、サリーを見ているともスイカを見ているともどちらとも判断がつかぬ方向を見つめながら、語り始めた。

 

「そもそもですね、下取りというのは新商品を買ってもらう代わりに不要になった古い品を引き取りますよという、言ってみればお店からの好意なわけです」

「好意だったのか? 今までいっさい好意なんて感じたことなかったけど」

サリーは思わず聞き返した。

 

「好意は言いすぎかもしれません」

「だよな、好意ではないよな」

「好意ではありませんが、何というのでしょう、誠意というのか、何というのか」

「誠意か? 誠意でいいのか?」

 

サリーはまたも食い下がった。サリーとしては揚げ足を取ろうとしているわけではないのだが、しっくりこない言い回しをレファラが連発するため、気になって話に集中できなかったのだ。その結果、しつこくレファラに絡む羽目に陥っていた。

 

そしてスイカは、早くもレファラの話に対する興味を失っていた。窓の外に見えるジャンプ台を眺め、次はいつ跳べるのだろう、とでも言いたげなソワソワ感を漂わせはじめていた。

レファラは、特にそんなスイカの様子に傷ついた様子だった。

 

気もそぞろ

 

「ちょっと、スイカくん、あたしにもっと興味持ちなさい。あーあーはいはい、わかった、わかりましたよ、言えばいいんでしょ、言えば。なんで下取りできないのかを」

「おっ? 理由があったのか? んじゃ今までの『好意』とか『誠意』とかって言葉は本気で意味なかったのかよ」

「まあまあ。落ち着いてサリーくん。聞けばキミもきっと涙したくなるから」

「ど……どのようないきさつがあるのでしょう。下取りできない事情とはいったい……」

スイカはごくりと息を飲んでいた。レファラに対する興味が戻ってきたらしい。レファラは満足げにうなずくと、一言でまとめた。

「宇宙船が壊れてます」

衝撃の一言

 

「……おう」

サリーはとりあえず相づちを打った。

「……はい」

スイカもとりあえず話を聞いているということをレファラに伝えた。

 

「うちは宇宙船をお店として使っているわけです。つまり、このお店が壊れているということです。壊れているため、ここから動くことができません。商品を仕入れたとしても売りに行くこともできず、倉庫にも入れられず、廃棄するにしても廃棄場まで行けません。だから下取りはできません」

「……」

サリーはついに黙った。スイカは特に言いたいことがなかった。

 

「そして悲劇はそれだけにとどまらなかった……」

レファラは言うべきことはもう言ってしまったためなのか、急にくだけた口調になりながら続けた。

「偶然宇宙ポートの近くに停船してる時に故障したからまだマシなんだけどもさあ。この星の中に住んでいても配送してほしいって言うお客はいるのよ、まあそうよね、外、だいたい凍ってるし。大きなものは運んでほしいよね、わかる、わかるんだけどもさあ」

「まさかそれで? 宇宙船を動かせないから、凍った地面ですべらせて商品を運ぼうとしたのか?」

「ほかに何があるっていうのよ。運べるもんならとっくの昔に運んでるっつうの、レファラさんのお店は秒速が命なのよ」

「秒速が命」

スイカはつい繰り返した。何かがおかしい表現という気がしたのであろう。

 

そんな、自分のお店のキャッチコピーを唱える店長と、それを繰り返す従業員の朝礼のような会話を聞いていて、サリーは何となく嫌な予感がした。

「客と配送のコスト減らす話してたんじゃなかったのかよ……。それも嘘なのかよ……。いや、あれもか?『ふくぶくろ』って何だ? あのメッセージ、客全員に送ったものじゃないのか?」

「セールのお知らせは連絡先を登録してくれてるお客さん全員に送ったけど、『ふくぶくろ』メッセージはサリーくんにしか送ってない。当たり前でしょ、あんな謎のおどろおどろしいメッセージ、サリーくんのほかに誰が読むのよ。宇宙船直してよ、サリーくん」

「なんでそんなに偉そうなんだよ……。え、じゃあ、『ふくぶくろ』はないのか?」

サリーの疑問に、スイカが驚いた。

「ええっ! ないのですか!?」

スイカとサリーの剣幕に、レファラも驚いた。

「え、あ……ゴメン。そこまで楽しみにされるとは思ってなくて」

 

ないの?

 

「何だよそれ……。なんでそんな嘘つくの? 『助けてくれ』って言われれば普通に来るのによ」

「えっ、そうなの? 何がキミをそこまでさせるの?」

そうレファラに言われてみてサリーも気づいた。

 

どんな熱血客だ。

 

実際は、本当のことを言われたとしても、ここまで来たかどうかはわからない。この星にもメカニックはいるはずだ、とも思った。わざわざ宇宙船で駆けつけはしなかったかもしれない。

 

なるほど「ふくぶくろ」をメッセージに入れたのはそれなりに意味があったのかもしれない、とサリーは少しだけ納得した。

しかし「ふくぶくろ」が存在しないことを知り、スイカは目に見えてしょんぼりしていた。サリーが来たことで宇宙船が直るのなら、配送の手伝いも必要なさそうだ。スイカこそいいツラの皮だった。そのことに気づいたのか、レファラは言った。

 

「わかりました。『ふくぶくろ』はご用意いたしましょう。宣伝したからには売りますよ。そしてスイカくん、まだ氷ロードは閉ざされていないからね」

スイカは顔を上げた。どういうことなのかレファラに尋ねようとしたとき、サリーが先に言葉を発した。

 

「『ふくぶくろ』とか言いつつ、各種格子を詰めましたとかって雑な商品じゃねえだろな」

レファラは、一瞬図星をつかれたような表情をしたあと、気まずそうに笑った。

「あ~……。それは無理だとわかった、今。本当にちゃんとした『ふくぶくろ』作るから、安心して」

 

それを聞いてサリーは「よし」とつぶやいた。「ふくぶくろ」になぜここまで思い入れるのか、自分でもよくわからなかった。スイカに感化されたとしか思えない。異常に「ふくぶくろ」に思い入れるコンビが現れ、レファラが困惑したのも当然だったのかもしれない。サリーはちょっぴりレファラに同情した。

 

しかし、それにしても。サリーは思った。宇宙船の緊急時、だいたい呼ぶことになっている「USsF(Universal Spaceship Federation)」を呼べばそれで済む話だ。

そう思ったので、レファラ本人に聞いてみた。

「『USsF』は?」

「呼んでたと思うよ、サリーくんたちが来なければ」

「そうか。うーん……。期待に沿えるかわからねえが、とりあえず自己診断用アプリ通してみるか。俺は外側の故障をチェックしてみる。んで故障の原因を俺1人で何とかできそうならやるけども、できなさそうなら俺の宇宙船で引っ張ってってやるから、宇宙船ショップに修理を依頼してくれ」

 

「わかった。よろしく、サリーくん」

「おう。あ、そうだ。宇宙船の故障原因探す前に、1個スイカのために作りたいもんがあった」

「何でしょう?」

スイカが尋ねた。

 

「出来てからのお楽しみ。あ、んでレファラ。宇宙船直ったら、俺の中古品買い取ってくれるんだろうな」

「買い取るに決まってるでしょ、当然。査定はするけど。直ればね」

「おう。あと、普通に料金払えよ。修理費」

「はい。払いますよ。直ればね」

サリーは気づいた。出張費か。出張費をケチりたくて謎の「ふくぶくろ」作戦を採ったのか。一瞬モヤっとしたが、どうでもいい話のような気がした。困った時にメッセージを送りやすい相手に送った、それだけの話なのだろう。

 

そんなわけで、サリーはレファラの宇宙船の故障原因を探るべく、だいたい何でもできる端末「EVY」を使って、宇宙船のメインコンピュータに診断用アプリを走らせた。それが完了するまで間があったため、サリーは自分の宇宙船に戻り、何やら作業を始めていた。

 

一方「Dm」店内に残ったスイカは、コンテナの上でゆらゆらしながらレファラに尋ねた。

 

「レファラさん、先ほどの言葉はどういう意味でしょう? サリーさんの宇宙船修理を待ってから配達してもよいのではないでしょうか?」

「そうなんだけど、お忙しいお客様でね、時間指定があるの。だから氷の上すべらせてみようかとか、無駄なあがきをしてみたんだけど、どうしても無理そうで。どうしよう、断るしかないのかなって思ってたところだったんだ。在庫にあった格子をどうにか使えないかなって持ちだしてみたりしたけど、どう使っていいのかもわからないし」

 

「わたくしが100点満点を取って3%割引券ゲットしたあの格子ですね」

「そう。新しいよね、ツートンカラーでさ」

何となく憂鬱そうにレファラは言った。

 

ツートン

 

「だから、スイカくんが配達に協力してくれるんだったらすごく助かるんだ。ちょっと無茶な計画なんだけど、川の向こうまで跳んでくれる? スイカくん」

スイカは顔を輝かせた。もう一度ジャンプ台で跳べるのだ。

「もちろんです! 今度こそ向こう岸にたどり着いてみせましょう!」

 

そう言ってから、スイカはふと、今までサリーとレファラの会話を聞いていて感じ取ったことを確認した。

「サリーさんにこれまで格子を売ってきた謎の格子職人は、レファラさんだったのですか?」

さらに憂鬱そうに、レファラは首を横に振った。

「職人は別にいる。あたしはただ、増え続ける謎の格子の在庫をさばきたいだけ」

「そうでしたか……」

 

レファラがあまりにも憂鬱そうな顔をしたため、スイカは黙った。事情やら経緯やら何やらを知らないのに何かを言おうとすると、根掘り葉掘り質問してしまいそうだったからだ。憂鬱な顔をした者を質問攻めにしないという謎の優しさをスイカは発揮した。そこら辺の優しさが「もっとあたしに興味を持て」とレファラに叱られるポイントでもあるわけだが、とにかくスイカは、優しさに見せかけた単なる放置を今回も選択した。

 

コンテナの上でスイカがゆらゆらぼんやりしていると、気を取り直したのかレファラがぽつりと言った。

 

「サリーくん、何作ってるんだろうね」

 

ゆらゆら揺れていたスイカは、ゆらゆらするのを控え、 少しのあいだ考えた。そして言った。

 

「わかりませぬ。サリーさんは奇想天外なものを作るのがお好きなようですね」

スイカの言葉に、レファラが吹きだした。

「そうかも。サリーくんって、なんか変だよね、作るもの。何でそこ? っていうもの作りたがるよね」

『聞こえてんぞ』

 

サリーの声が店内に響いた。

サリーの何でも端末「EVY」は、レファラの宇宙船の故障診断に使っていた。その代わりに、レファラがサリーに持たせた通信専用端末だった。サリーの声は、レファラの店内にあるもう1つの通信専用端末から聞こえてきていた。スイカはビクリと体を動かした。

「聞いていたのですか、サリーさん」

『聞いてましたよ、スイカくん』

「なあによ、別に陰口ではないでしょ。というか何作ってるの?」

『秘密』

「ひみつ……!」

スイカが衝撃を受けたようにのけぞった。

びっくりスイカ

 

「れ、レファラさん、何を作っているのでしょうか、サリーさんは」

スイカはソワソワとレファラのほうを向いた。通信端末からは、サリーが作業する音が聞こえ続けていた。

「何の音なのでしょうか、これは! 気になって仕方ありませぬ! そうだ、わたくし、今からサリーさんの元へ」

 

バビョーンと飛びはねて、コンテナから下りようとしたスイカを、レファラは手で押さえつけた。押さえつけたというよりも、力づくでねじふせた。そしてにっこりとスイカに笑いかけながら言った。

「おとなしく待っていようよ、スイカくん。サリーくんの邪魔になるし」

「はい」

スイカは即答した。頭の上のレファラの手の力が有無を言わせなかった。

 

(ハマり編12話につづく)