スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

トウフ編7手目(全7手)

(前の話はこちら↓)

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(登場キャラクター)

登場キャラクター2名

 

(舞台となったトウフビル↓)

トウフビル

 

トウフ編7手目(全7手)

 

最終配置図

 

スイカの超能力「さいこきねしす」のオーラが、サリーを包んでいた。

 

トウフビル外周サリー視点



このままスイカが超能力を発動したらどうなってしまうのか、サリーにはわからなかった。おそらくスイカ自身にもわからないであろう。

何しろ、スイカはこれまで生き物に対して「さいこきねしす」を使ったことがない。今回が初の試みである。

 

トウフビルの外と内を隔てている窓は特殊なガラスが使われていて、ぼんやりとしか見通せなかった。窓の内側にいるスイカには外側のことはわかっておらず、窓の外のぼんやりした影(サリー)を、単なる不審者とみなしていたのだった。

 

サリーは、窓ガラスを開けようとした。
スイカに、ここにいるのはこのトウフビルの住人にしてスイカの同居人でもあるサリーだと伝えなくてはならない、そう感じたからだ。
サリーからしてみれば、最終手段である。


今までスイカの前に姿を現さないようにしていた苦心が水の泡だった。だが、成功するのかしないのかわからない、何を目的としているのかもよくわからないスイカの「さいこきねしす」のターゲットにされた初の生き物になるのは御免だった。

  

しかし、窓ガラスは外側からは開かなかった。

 

「開かねえのかよ!」

 

まさか自分が暮らすトウフビルの窓が外側からは開かないなどと、サリーは想像だにしていなかった。窓の掃除を機械に任せっきりにしていたことをサリーは悔いた。
が、今はサリーが窓掃除をいかにすべきだったかについて考えている場合ではなかった。

 

サリーの最終手段は、早くもついえた。

 

スイカから発せられる超能力オーラは先ほどよりも強くなっていた。サリーが窓を開けようとして開けられなかったことで、より不審者感が強まってしまったようだ。


サリーは慌てた。
慌てて、窓を叩いた。
バンバンベンベン叩いた。

が、窓を叩かれ、よりいっそう警戒したスイカは、さらに強く超能力に集中し始めた。


これほどまでに集中したスイカを、サリーは見たことがなかった。
なぜ今このタイミングでこのように集中しているのか、もっとほかのタイミングで集中すべきタイミングは山ほどあったのではないかとサリーはツッコみたくなったが、おそらくスイカにそのツッコミは届かない。

 

サリーは窓から離れた。窓にべったり張りついていることが余計にスイカを警戒させていることに気づいたからだ。それはそうだろう。トウフビルの周囲の土地がどこまでサリーたちのものかということに関わらず、自分たちの家の窓に張りついて中をのぞき込んでいる者がいたら、だいたいの者は警戒するだろう。

 

サリーは、窓から離れながら玄関に回り込もうとした。
しかしスイカの「さいこきねしす」のオーラは、依然サリーの周りに漂っていた。壁の影に隠れたことでスイカからはサリーが見えなくなったはずなのに、サリーを追尾してくる。追尾してきた超能力のオーラは、サリーの足の付近で特に強く光り始めた。足を狙っているようだ。

 

「どんだけ優秀な超能力なんだよ」


思わずサリーはツッコんだ。スイカではなく、スイカの超能力の優秀さに、胸のどこかがひんやりと冷えた。

スイカの気をそらさなければならない。でなければ、サリーが玄関にたどり着く前にスイカの超能力が炸裂しそうだった。「さいこきねしす」を生き物に使うことで何が起きるのかわからないが、何が起きるのか知りたいと思うほどサリーは命知らずではなかった。

 

サリーは、先ほどクローゼットルームで拾った、だいたい何でもできる「EVY」の超小型端末をポケットから取り出した。

 

 

 

一方トウフビル内では、スイカが集中していた。

 

トウフビル内スイカ視点


それまで窓に張りついていた謎の存在(サリー)が、窓から離れるのが見えた。


「お待ちなさい!」


窓の外の謎の影はスイカの言葉に構わず歩き続け、窓を通りすぎ、スイカの視界から消えた。スイカはうなった。

 

「ぬぬぅ……! 逃しはしませぬ!」


スイカは、生き物に対して「さいこきねしす」を使ったことがない。
そのため、どれくらいチカラを集中させれば効果があるのかわからなかった。
さらに、「さいこきねしす」が生き物に効いたとして、そのチカラで何をどうしようとしているのか自分でもよくわかっていなかった。

 

だが、謎の影が窓から離れて視界から外れたことで、スイカは焦った。
窓を開けたところで、体格差があるであろう謎の影と互角に渡り合えるとは思えない、もしかしたら影は玄関に回り込むために窓を離れたのかもしれない、このまま「さいこきねしす」を発動してしまうしかない……そこまでスイカが考えたわけではなく、スイカはただ惰性で超能力でこの場を何とかしようとし続けた。

 

「足止めができればよいのです……そうです、足止めです!」
方針がはっきりした。
謎の影の足止めをすべく、スイカは超能力を発動しようとした。スイカの超能力は優秀だった。方針を定めると、壁に隠れて見えないはずの謎の影の輪郭がぼんやりと見えた。

 

そのときだった。


灯りがついた。


最初は、玄関。
次にスイカがいるリビング。
廊下、洗面所、脱衣所、シャワールーム、キッチン、クローゼットエリア。
ひとつのエリアにある複数の照明に、順々に光がともった。

 

光は隣り合ったエリアへ伝播していく。
スイカとサリー、各々の個室のドアの隙間からも光が漏れていた。

 

光の波が、暗かったトウフビルを通り過ぎたかのようだった。

波が通りすぎたあとには、いつも通りの穏やかな表情のトウフビルが残された。

 

スイカは、ぽかんとした。
スイカの集中が途切れた。超能力のオーラはふわんと揺らぎ、空気に溶けた。

 

 

 

玄関のドアが開いた。
サリーだった。なぜかげっそりした顔をしていた。

 

合流

 

「お、お帰りなさいませ、サリーさん」
「ん、ああ、ただいま」
今帰宅したわけではなかったが、サリーはとりあえず帰宅の挨拶をした。
持っていた「EVY」の超小型端末をポケットにしまった。

 

サリーはスイカの気をそらすためにトウフビルの照明をリモートコントロールで点灯したのだった。こんな子供だましにスイカがだまされるのだろうか、子供でもだまされないのでは、というかこれで何をどうだますことになるのだろうか、という疑問がサリーの中で渦巻いていたが、それ以外に何も手がなく仕方なくそうしたのだった。サリーの心配をよそに、スイカの集中力は見事に途切れた。誰かの集中力を途切れさせるための努力をする日が来ようとは、まったくサリーの想定外だった。

 

「んで、オマエはなんでそんな格好なの?」
サリーはリビングにあったソファに腰を下ろして言った。
スイカは猫の着ぐるみを着ていた。サイズがあっていないため、何かの衣装のようにずるずる引きずっている。


「これは手がかりなのです」
「お、おう」
「リビングに突然、服が出現するという不思議事件が起きたのです!」
「そうか……」


不思議も何も自分がこっそり脱いだだけなのだが、サリーは黙っていた。

その代わりというわけではないが、今気づいたかのようにサリーは言った。


「ん、シャワールームからなんか音が聞こえるな」
「はい。パイプ掃除マシーンを使っていてですね……ハッ!!」
「お?」

 

スイカはプルプル震えた。
「内緒でした……秘密裏に排水管の掃除を済ますはずだったのですが」
「なんでまた排水管の掃除をこんな夜中にしてんのオマエ……」

ずっと気になっていた疑問を、ようやくスイカにぶつけられた。


しかしスイカの答えは要領を得なかった。
「い、いえ……。突然掃除したくなったもので、はい、ええ」
スイカはプルプル震えていたが、スイカの目はもっとプルプルしていた。プルプル小刻みに泳いでいた。
サリーがどうツッコんだらいいのかわからず言葉を選んでいると、スイカが目を泳がせるのをやっとやめ、サリーに尋ねた。


「サリーさんこそ、いったいなぜ窓から入ろうとなさっていたのですか?」
「うっ」


バレていた。

窓を隔てていた時点では気づいていなかったスイカも、その後玄関から入ってきたサリーを見て気づいたようだ。

スイカは特に謝らなかったので、サリーも特に謝らなかった。

 

サリーは正確には窓から入ろうとしたわけではなかった。だが、スイカからはそのように見えたのだろう。
サリーがぼんやりそう思い、顔をスイカのほうに向けると、スイカはうとうとしていた。

 

「おい、寝るなら自分の部屋で寝ろ」
「この手がかり、ふかふかでほかほかですむにゃむにゃ……。わたくしですね……、にゃみゃくりーぬがですね……」


むにゃむにゃとスイカがつぶやいたが、最終的にすうすうという寝息に変わった。

本人(本スイカ)が言うように、着ぐるみがフカフカホカホカしていて眠くなったらしい。サリーはスイカを着ぐるみごとスイカルームに運んだ。

 

サリーには、これからスイカによって荒らされた脱衣所と洗面所の片付けと、シャワールームのパイプ掃除マシーンの片付けが待っていた。
これからやらなくてもいいような気もしたが、スイカの超能力に本気でおびえたせいで眠れそうになかった。

 

洗面所にある掃除用具入れからモップを取り出した。
ふだんは機械に掃除を任せているサリーだったが、時折、自分で掃除したい日がある。
そのために、この時代にしてはずいぶんとクラシカルな掃除用具をひととおり拠点に置いていた。

 

このまま隠しごとをしたままうやむやに済ますか、何もかもスイカに話すか。サリーの脳裏にそのふたつの選択肢が浮かんだ。

サリーは息をついた。選択肢として自分が思い浮かべた時点で、どちらにも長所があり、どちらにも短所がある。どちらを選んでも構わない気がした。どちらを選んでも、それなりの未来が待っているはずだ。

 

だが、スイカが、何の躊躇もなさそうに着ぐるみを着た挙句、フカフカすやすやと眠りはじめたのを見て、サリーは隠しごとをする意味がよくわからなくなった。

 

「不思議事件ね」


モップを手に持ち、サリーはひとりごちた。

スイカはずいぶん不思議がっていた。自分から見た今日の出来事を話したら、どういう顔をするのだろう。
また、スイカがひとり奮闘していた排水管の掃除も、なぜそんなことになったのか知りたい気持ちもあった。

気づいたら、選択肢はひとつしかなくなっていた。

 

明日はスイカも自分もゆっくりできる。話は明日しよう。
スイカのほうも、何やら言いたいことがあったらしい。それも聞こう。

サリーはそう自分の中で結論づけた。

 

何にしろ、明日だ。
今宵のパーティーは終わった。

掃除でもして眠くなるのを待とう。

 

 

 

手始めにサリーは、脱衣所の床に落ちていた生クリームをモップで拭いた。

 

トウフ編イメージイラスト

 

(トウフ編おわり)