スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

トウフ編6手目(全7手)

(前の話はこちら↓)

www.suika-watermelon.com

 

(登場キャラクター↓)

登場キャラクター

 

(いまだに室内が暗いままのトウフビル↓)

トウフビル

 

トウフ編6手目

 

配置図

 

サリーは猫の着ぐるみをリビングの床に投げ捨てた。
今夜の仮装パーティーですべった仮装からの卒業だ。

 

着ぐるみ脱ぐ

 

着ぐるみをひといきに脱ぎ捨ててから、気づいた。

 

薄着すぎる。


下着は身につけていたが、さすがにこの薄着具合で「今帰宅した」と言い張るのは無理がある。今度は「下着姿でパーティーに出た」という、よくわからない濡れ衣を着せられてしまう。

 

何か着なくてはならない。
とにかくクローゼットエリアに行かなければならない。
猫の着ぐるみは、あとで拾ってクリーニングに出そう。
そう思って、サリーは、トウフビルの暗闇の中でクローゼットエリアに急いだ。

 

サリーがクローゼットエリアのドアを開けたとき、脱衣所からスイカがバビョーンと飛びだしてきた。

 

「!!」

 

驚いたサリーは、反射的にクローゼットエリアにすべりこんだ。あまりに驚いたため、しばし動悸が収まるのを待たねばならなかった。ドアを開けたままスイカから見えないであろう位置まで進み、呼吸を整えた。

 

「なんなんだアイツは……。心臓に悪い……」


サリーは小声で言いながら、手近にあった服を着た。クローゼットエリア内も暗いままだったので、手探りで服を選んだ。サリーが持っている服はだいたいどれも形が一緒なので、それでも特に問題はなさそうだった。ついでに、サリーがいくつか所持している、だいたい何でもできる「EVY」の超小型端末がそこら辺にほったらかしになっていたので、拾ってポケットに入れた。


(これでよし)


サリーのファッションに対する関心が薄いことと、そこら辺に物を置きっぱなしにするだらしなさから、この早着替え、早着替えではなく単なる早着なのだが、とにかくこの現象が成立した。


首の前にTシャツのラベルが出ていた。ラベルは、サリーが先祖から受け継いだ数少ない犬らしい特性、フカフカもふもふの毛並みすらも貫通していた。首の前がチクチクかゆくなり、サリーはTシャツを前後逆に着ていることに気づいた。


腕を中に引っ込めTシャツをモゾモゾ回転させ前後を正したはいいが、今度は服を回転させたことで服の中の毛が何だか奇妙な感じになった。しかしサリーはそこまで気にしていられなかった。


服の中で毛がおかしな方向に持って行かれてる感じのまま、サリーはクローゼットエリアからリビングに出ようとした。
そのとき、リビングでウロウロしていたスイカが突然叫んだ。

 

「連絡をしなくてはなりませぬ!」

「……」
まったく意味がわからない。


何が起きているのか、先ほどから何をしているのか。いや、掃除をしているのはわかるが、なぜ排水管を夜中に掃除しているのか、そしてまた、こんな夜更けにどこと連絡を取るつもりなのか、サリーにはスイカに聞きたいことが山ほどあった。

 

服を着て落ち着いたためなのか、スイカの謎のひとりごとで出鼻をくじかれたからなのかは不明だが、サリーはいくらか冷静になった。
冷静になった頭で考えると、パーティーに行くといって出かけた自分が、いきなりクローゼットエリアから出てくるのはおかしい気がした。玄関からまず入らねばおかしい。サリーの頭脳はそう判断した。


ここトウフビルのリビングは玄関とつながっていた。そして今、リビングにはスイカがいる。クローゼットエリアからトウフビル内を通って、スイカに見つからないよう玄関に向かうのは無理そうだった。
サリーはクローゼットエリアにある窓から外に出た。

 

そして、外に出てからすぐに思い直した。
夜風がサリーを我に返らせた。

 

普通にクローゼットエリアのドアからリビングに出てもよかったのではないか、ということに気づいたのである。スイカがシャワールームにいるあいだに帰宅して、クローゼットエリアで着替えを済ませてリビングに向かう。その流れのどこがおかしいのか。


冷静になったつもりで、まったく冷静でなかった自分の感覚をサリーは呪った。しかし、今さら窓からビル内に入り直すのもバカバカしい。
サリーはふだん隠しごとをし慣れていないせいもあり、何が自然なのか、普通とは何なのかがよくわからなくなっていた。

 

当初の予定通り、外から玄関に回り込んで今帰宅したようなふりをしよう。サリーはそう考えた。夜も更け、さらに仮装パーティーですべりまくったこともあり、サリーは疲労していた。何かがおかしくともどうでもよいという感覚に見舞われ始めていた。猫の着ぐるみからはとっくに脱している。サリー的今夜のハイライトは峠を越していた。とにかく玄関を目指せばそれで解決だ。

 

サリーはそう結論づけると、クローゼットエリアの窓付近から玄関に向かって、トウフビルの周囲を歩き始めた。
疲れていたせいなのか、周りにあまり注意を払っていなかった。窓にぶつかった。建物に近づきすぎていたようだ。


突然、室内からスイカの声がした。

 

「なにやつ!」

 

トウフビルは、防音処理がそこそこほどこされていた。スイカは叫んでいたようだが、外には声がほとんど漏れていない。しかし、サリーは遠い先祖が犬であった。その特性はサリーにも少しだけ残っている。サリーは耳がよかった。壁越し、窓越しで小さくなってはいたものの、サリーにはスイカの声が聞こえた。


サリーは、声がした方向をぼんやりと見た。暗い窓があった。窓の向こうは見通せない。
なにやつ、と言っていた。誰何(すいか)である。スイカの誰何である。


「……」


しかし、なんと返せばいいのか。スイカに誰何されたところで、サリーは答えようがなかった。

自分だと名乗ったところで、その先をどう説明すればいいのか。クローゼットエリアから突然出てくるよりも、リビングに突然出現するよりも、さらに説明しにくい状況に自分が今いる気がした。

 

サリーが躊躇していると、窓の向こうが小さく光り始めた。


「……!」


超能力だ。スイカが超能力「さいこきねしす」を発動しようとしているのだ。

 

トウフビルは平屋建てだ。すべての窓が1階にある。すべての窓に、外からも中からもよく見通せない特殊ガラスを使っていた。
それが災いしたのか、サリーからもスイカの姿はよく見えなかったし、スイカからもサリーの姿はぼんやりとしか見えていないようだった。

 

それにもかかわらずサリーは、ざわざわと全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
Tシャツの中でおかしな方向に流れていた毛が、もはやそんなことどうでもよくなるくらいに逆立っているような、そんな感覚だった。
スイカの姿はよく見えず、ガラス越しに超能力オーラがぼんやりと見えただけだったが、自分がまずい状況にいることだけはサリーにも理解できた。

 

スイカはふだん、もっぱら身の回りの物に「さいこきねしす」を使っていて、生き物に対しては使っていなかった。少なくともサリーは、そんな場面を見たことがなかった。
それが今、自分に向かって「さいこきねしす」を発動しはじめている。

 

「俺だ! サリーだ!」


サリーは声が届くよう窓にへばりつきながら叫んだが、あいだにある窓や壁が声を吸収してしまうのか、スイカには届いていないようだった。スイカは、サリーほど耳がよくなかった。


「おい、おいおい。どうなるんだこれ? 生き物に使っていいのかそれ?」


どくん。心臓が大きく音を立てた。気がした。
まずい。スイカを止めないとまずい。


サリーは最終手段に訴えることにした。

 

配置図2

 

(トウフ編7手目につづく)