スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

トウフ編4手目(全7手)

(前の話はこちら↓)

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(登場キャラクター)

登場キャラクター

 

(不穏な香り漂うトウフビル↓)

トウフビルヂング

 

トウフ編4手目

 

配置図1

 

サリーはシャワールームを使っているのが誰なのか、シャワールームの外から探ろうとした。


サリーには、遠い先祖である犬の特性が、ほんの少しだけ残っていた。鋭い嗅覚もその特性のうちの一つだった。
というわけで、くんかくんかと鼻を駆使してシャワールームの物音の主を探った。

 

動物ではない気がした。

 

動物ではない、といえばスイカである。
やはり、シャワーを使っているのはスイカなのか?

 

そう考えているあいだも、サリーは自分の背中のジッパーを下ろそうと四苦八苦を続けていた。

 

着ぐるみサリー


仮装パーティーですべり倒した猫の着ぐるみから、早々に脱したかったからだ。
犬に似ている自分が猫の着ぐるみを着たら面白かろうと思ったが、パーティー参加者のウケはイマイチだった、まさにその着ぐるみであった。

 

すべったネタから脱したい、そしてこのトウフビルでサリーとともに暮らすスイカの目に触れぬまま猫の着ぐるみを封印したい、それが今のサリーの悲しい願いだった。

 

シャワールームのドアが開く音がした。

 

サリーは、ジッパーに手をかけたまま、動きを止めた。
出てくるのはスイカだろうとは思うものの、スイカならなぜ部屋の照明を暗くしているのか、スイカらしくない省エネ精神をなぜ今になって発揮したのか、不審に思う気持ちがあった。


その不審感および不信感が、サリーを暗闇の中で立ち止まらせた。サリーがいる場所からは、脱衣所にいるスイカは、一部分しか見えなかった。


スイカは自称「鼻がないから匂いなどわからぬ」やつだった。それなら耳がないのになぜ音は聞こえるのかサリーには不思議だったが、本人(本スイカ)がそう言い張るのだから仕方がない。そういうものなのだろう。

だから、スイカに姿を見られない限り、自分がここにいることはバレぬはず。サリーはそう考えた。

 

サリーがリビングの暗闇から脱衣所の様子をうかがっていると、スイカがシャワールームから姿を現し、足ふきマット……もとい、全自動温風乾燥機にそよそよ揺れ始めた。


やはりスイカだった。しかしどこか、様子がおかしい。
サリーの耳に、スイカの声が聞こえた。


「排水管を掃除しなくてはいけませぬ!」

 

サリーは呆然とした。スイカの言葉の意味がわからなかった。いや、意味はわかるのだが、なぜスイカがそんなことを言うのかがわからなかった。掃除とは、あの掃除だろうか。部屋を、いや部屋とは限らないが物や場所をクリーンにする、あの掃除をしなくてはならぬとスイカは宣言しているのだろうか。


なにゆえこんな夜も更けた時間に、突然、掃除魂に火がついてしまったのか、サリーにはまったく理解が及ばなかった。しかも排水管とはまたマニアックな場所に目をつけたものだ。サリー的掃除場所人気ランキングを心の中に思い浮かべながら、サリーは呆然とした。


サリー的には、排水管は人気ランキング圏外だった。むしろ、夜中にふと思いついて掃除しようと思わない場所ナンバーワンだった。

呆然としていたサリーに、さらなるスイカのひとりごとが襲いかかった。


「四方八方ブラシです!」


今度は言葉の意味すらわからなかった。あまりにも意味がわからず、背中のジッパーに手をかけたままぼんやりしてしまったサリーは、体のバランスを崩した。

 

後ろに倒れそうになり、片方の足を後ろに出して踏ん張ろうとして、着ぐるみのすそを踏んづけた。今度は横に倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。
ふう。サリーが暗闇の中で息をついていると、脱衣所を荒らしているような物音がした。


スイカだった。

なぜ自分が暮らす拠点を荒らしているのか。そう思っていると、今度は隣にある洗面所にスイカの魔の手が伸びた。


「ありました!」


スイカはパイプブラシと、それを操るパイプ掃除マシーンを探していて、ようやく見つけたらしい。探すのはいいが、見つけ出したあと、荒れ果てた収納スペースの収拾をどうつけるのかは考えていない様子だった。

 

スイカらしいと言えばスイカらしい。サリーはそう思い、荒れ果てた脱衣所と洗面所に、妙な安心感を覚えた。いつものスイカだ。後先を考えているような考えていないような、いややっぱり何も考えていないでおなじみのスイカだ。

 

安心したついでにサリーは足の位置を変えたくなり、また着ぐるみのすそを踏んづけた。まずい、今度こそ転ぶ。大慌てで着ぐるみを踏んづけたほうの足をもう一度あげて、移動させた。今度もなんとか踏みとどまった。

踏みとどまったが、そばにあったテーブルに足をぶつけてしまった。

 

ガタリ

 

テーブルが鈍い音を立てて、少し移動した。
しまった。サリーが不自然な体勢で動きを止めていると、脱衣所からスイカがこちらをうかがっているようだった。


「サリーさん……では、ない、の、ですか?」


スイカが動揺を隠さぬ様子で、暗闇に向かって問うた。
サリーはなんと答えたらよいか迷った。迷っているうちに、己が未だに着ぐるみから脱していないことを思い出した。そして今はまだ返事をできないと判断して、黙っていた。その前に猫の着ぐるみから脱しなければ。


スイカはしばらく警戒する様子を見せていたが、気のせいだと判断したのか、引き続きパイプブラシとパイプ掃除マシーンを、スイカの超能力「さいこきねしす」で脱衣所にプルプルと運び始めた。途中、突然つるりとすべった。

 

(あっ)


サリーは驚いて息をのんだ。スイカはいつものごとく、謎のぽよん音を立てて転がった。なぜそんな音がするのか、サリーにはまったくわからない音だ。スイカがプルプル運んでいたブラシとマシーンは、プルプルしたまま宙にとどまった。床に転がったのはスイカだけだった。相変わらず意味不明に優秀な超能力、それがスイカの「さいこきねしす」なのだった。


ぽよぽよ転がっていたスイカはすぐに起き上がった。そして突如ガタガタ震え始めた。


「こぼれ落ちていたというのですか!」

 

こぼれ落ちる? 

(何が?)
サリーにはまたもや意味がわからなかった。


ガタガタ震えてはいたものの、スイカは特にケガなどをしているわけではないようだ。
スイカはその後、シャワールームにパイプブラシとパイプ掃除マシーンを運びこみ、
ガチャガチャグニャグニャ、何の音なのか不明な音をひとしきり立てた。その後、どうにかこうにか排水管の掃除を始めたらしき音が、サリーにも聞こえた。

 

サリーとしては、何はともあれ着ぐるみだった。
スイカ単独で掃除をしていたら、いつまでかかるかわからない。
いや、排水管の掃除はパイプ掃除マシーンがやるだろうが、そのほかの、荒らした脱衣所や洗面所の片づけが残っている。


早く着ぐるみを脱いでスイカのマニアックな掃除パーティーに参加しないと、明日まで掃除パーティーが続いてしまいそうだった。パーティーは一晩にひとつで十分だ、サリーはそう思った。


サリーは、己が身につけた着ぐるみのジッパーを一気に下ろした。
そしてサリーは、ようやく着ぐるみから脱出した。

 

配置図2

 

(トウフ編5手目につづく)