スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

トウフ編1手目(全7手)

(登場キャラクターはこちら↓)

登場キャラクター、スイカ、サリー

 

トウフ編 1手目

 

「目的地に到着しました」
機械の音声に、スイカはハッと目を覚ました。
タクシーの窓の外は、すでにとっぷり暮れていた。スイカおねむタイムだった。

 

自動走行タクシーの車内、そのシートの上にスイカはいた。

機械が運転する自動走行タクシーだったため、車内にはスイカだけしかいなかった。

 

「眠っていました……。お代はいかほどでしょうか?」
おねむタイムとはいえ、スイカは寝落ちしたことで少しだけ回復した。そんな回復スイカが運転席付近の機械に話しかけると、ダッシュボードの一部のパネルが光った。今までもこのパネルは光っていたが、段階を踏みたがる客のために、段階的に光の点滅が強くなる仕様になっているようだ。
ここに電子マニーのアプリ入り端末をかざせば支払いができる。

 

しかしスイカはスイカだった。

これまでスイカの身ひとつで生きてきて、この自動タクシーにも手荷物をいっさい持ちこんでいなかった。スイカなのでバッグやポーチを持つことが困難だったからだ。

しかしスイカは、特に困りはしなかった。

スイカは支払いを、音声コードで済ますことにしていた。


音声コードを使えるようになるまでに、レファラを巻き込んだ紆余曲折があった。さらに言えば、そもそもの支払いに充てるお金をスイカが稼げるまで、それはそれでドラマが生じていたが、それは今は別の話だ。

 

スイカは自らのスイカボディから複数の音を同時に奏で、音声コードを作りだした。スイカボディから発せられた音声コードは、タクシーの支払いパネルに到達し、処理された。これでスイカの自動タクシーの支払いは完了した。

 

「ご利用ありがとうございました」


タクシーの機械音声が言うのと同時にドアが開いた。

 

スイカは開いたドアからバビョーンと跳びおりた。

「ふう……やっと帰ってこれました」

スイカは道ばたに建っている建物を見あげた。そこにはスイカとサリーのこの星での拠点である、トウフビルが建っていた。

 

トウフ星のトウフビルヂング

 

スイカが十分ドアから離れたことををセンサーで察知すると、タクシーはドアを閉め走り去った。

 

 

トウフビルはその名の通り、四角い。そして白い。トウフのような見た目をしていた。
しかし特に柔らかいわけではない。四角く白い鉄筋構造のビル。それがトウフビルだった。
そんなトウフビルが建っているこの星を、スイカとサリーは「トウフ星」と呼んでいた。トウフビルが建っているトウフ星である。
トウフビルの窓から見える内部は暗かった。スイカとともにトウフビルで暮らしているサリーは、まだ戻っていないようだった。

 

スイカは、トウフビルのドアを音声で開け、中に入った。

 

トウフビル内


ドアが閉まると、トウフビル内部の入り口でスイカはため息をついた。
ため息がスイカについた生クリームをピロピロさせた。

 

スイカは水を飲めば動くことができた。主食は水である。
そのスイカが、口の周りに生クリームをべったりつけている。スイカ的に大事件であった。


スイカはスイカなため、自分の口の周りに生クリームがべったりついていても、颯爽とぬぐうことができない。スイカは超能力「さいこきねしす」を使えたが、自分ボディや自分ボディにくっついたものに対しては、その力をうまくコントロールすることができなかった。

コントロール不能な上に「さいこきねしす」はとても疲れるので、スイカはできればやりたくなかったのだった。
そんなわけで、食べられもしない、また食べてもいない生クリームを口の周りにべったりつけての帰還とあいなった。

 

いろいろあってこんなことになったのだが、スイカは自分が生クリームを口の周りにべったりつけてトウフビルに帰ってきたことを、誰にも知られたくなかった。特に、ともに生活を送っているサリーには。

 

「オマエ、水で動けるんじゃなかったのか? 主食が水ってウソだったのかよ」
そんなことを吐き捨てるように軽蔑するかのように言うサリーが思い浮かんだ。これは自分の信用に関わる大問題だ、スイカはそう認識していた。

 

落ち着いて考えれば、生クリームを口の周りにべったりつけていることがなぜ信用問題に発展するのか、そのおかしさに簡単に気づくはずだったが、スイカは落ち着きをなくしていた。簡単にそわそわと落ち着きをなくす、それがこのスイカの特徴であった。そわそわスイカはこれから自分がやるべきことを心の中で再確認した。

 

まず、トウフビル内のシャワールームへ行く。

トウフビルは、ビルと名前がついているが、平屋だった。1階建てのまさかのビルヂングである。

つまり、スイカが今いる入り口と同じフロアにシャワールームがあるということだ。そこでシャワーを浴びて生クリームを洗い流す。

 

余裕があれば、生クリームを流した排水管および排水口を洗う。排水管をどうやって掃除するのか、ふだんトウフビルの排水管の掃除に無縁のスイカには不明だったが、それはそれとして、まずはシャワーだ。
スイカが心に決めたとき、外で物音がした。タクシーが停車する音のようだった。

 

サリーが帰宅したのだ。サリーはサリーで、何やらパーティーに参加すると言って出かけていた。そして今、そこから帰ってきた。


スイカは焦った。サリーに見つからないうちに、シャワーを浴びるところまではやってしまわないといけない。口の周りに生クリームをべったりとつけたこんな状態をサリーに見られるわけにはいかない。
スイカはそう考えると、生クリームを口の周りにべったりつけたまま、暗闇の中でキリリと表情を引き締めた。

 

トウフビルの外で、タクシーのドアが閉まり、走り去る音がした。
サリーがタクシーを降りたのだろう。地面を歩く音がした。


スイカはトウフビルに入ってから、照明をつけることも忘れ入り口にたたずんでいたため、トウフビル内は依然として暗かった。衛星の光のみがトウフビルの窓から入り、室内を青白く照らしていた。

 

そんなほの暗い室内を、なりふり構わずバビョンバビョン飛び跳ね、スイカは何とかシャワールームにたどりついた。超能力でシャワールームのドアを開け閉めすると、さらに超能力でシャワーのレバーを動かした。もはや息切れしていた。息切れしたスイカに、シャワーが降り注ぐ。

「ごふっ、ごふごふ。いいえ大丈夫ですとも、シャワーに負けるスイカではござらん!」

スイカは、誰に言っているのかわからぬ、シャワー非敗北宣言をした。

 

トウフビル内スイカはシャワー中


トウフビルの、出入り口のドアを制御する機械が作動した。

 

(トウフ編2手目につづく)