スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

アパート編「手袋」14話(全15話)

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(登場キャラクター↓)

登場キャラクター、サリー、クイス、ロシュ、レファラ、スイカ

 

アパート編「手袋」14話(全15話)

 

201号室

201号室

 

サリーがテーブルの上に置いたはずの落とし物は、どこにも見当たらなかった。
「消えた……?」
「消えてはいないんだけどね。気化した、と言えばいいのかな」
驚くサリーに、クイスは平然と言った。


「な、何だこれ? マジで何これ?」
「そういう商品なんだよサリー。そういう食べ物」
「えええ……意味わからん」
「サリー。合成食品って、肉以外の食品はまだまだこれからじゃない?」

クイスに言われ、サリーは混乱した表情のままうなずいた。


「え、ああ。確かにマズイって聞くな。合成魚とか、合成野菜とか、合成果物とか」
「うん。正直売れてないんじゃないかな。今はまだ、天然の魚とか虫とか植物を食べることが法律で禁止されてるわけじゃないから、よけいに。それなのに新商品はバンバン出てて、今ちょっとした地獄になってるんだよ、肉以外の合成食品は」


「お、おう。あ、え、食べ物だったのか? さっきの消えたアレ」

先ほどクイスが言ったことをやっと理解できたサリーが、クイスに尋ねた。
「そう。合成魚。今、本当に売れてないのか何なのか、余計な機能つき食品が売られてるんだよ。さっきのは自動消滅機能つき食品だね。でも肝心の味がひどくてさ。ほかの星にロシュと一緒に買いだしに行ったときに買って、この星に戻ってアパートに帰りながら食べようと思ったら、もうまずくてまずくて涙出てきて、つい投げてしまったんだよね」
「オマエ……歩き食いするなよ……つうか食い物を投げるなよ……」
「すみません。つい反射的に」
クイスが堅苦しく謝った。


「でもまあ、そういう商品だから、消費期限が来たら自然に消滅するし、まあいいかと思って。そのままにしちゃったんだ」

「『まあいいか』ってオマエ……」
「もうその場で宇宙ポートにUターンしたよ。口直しにおいしいもの食べたくなって。ほかの星の鳥類デパートのレストランでも虫食べてきたけど、さらに虫をどっさり買いこんで帰ってきたっていうね」

 

なぜかドヤ顔のクイスの横から、ロシュが申し訳なさそうに言った。
「ごめん、僕が拾っておけばサリーたちを惑わせることもなかったんだろうけど、なにしろクイちゃんの買い物の量が多くて。僕のアームを貨物運搬用に付け替えないといけないくらいだったから、そんな余裕なくて」

「ロシュが謝ることじゃねえよ、マジでロシュが謝る必要ねえよ」

サリーは真顔で言った。

 

「なんと……落とし物は食べ物で……さらに消滅しました……」
スイカが驚愕の表情を浮かべたまま言った。
「うん。本当に消滅したね。ものすごくまずかったけど、自動消滅機能だけはちゃんと機能したね」
スイカの言葉に、クイスがうなずいた。

 

掃除機の音が止んだ。ロシュが掃除を終えたようだ。
「お疲れ、ゴメンねロシュ、えへへ」
「気にしないでクイちゃん。確かに掃除しても掃除しても散らかるから、気が滅入って仕方なかったけど。ここはクイちゃんの部屋だからクイちゃんの好きなように使えばいいし、むしろ部屋に食べ残しの虫の足とかが落ちてるのが気になる僕が神経質なんだろうし」


「いや、そんな。気になるのは仕方ないよ、ロシュは精密機械だから。俺が食い散らかすのが悪いんだけど、でも食べてる時に細かいこと気にしてられないから仕方ないね!」
クイスは笑顔で言い切った。
「仕方なくねえよ……食い散らかすなよ、もういい大人だろうクイスよ」
サリーが横からツッコミを入れた。
「なんか、危機感があるんだよね。こういうご時勢だから、いつ天然の虫を食べちゃいけませんみたいな法律ができるかわからないし、食べられるうちに食べておかないとって、焦るんだよね」


しゃべって動くスイカが出現する混沌の世である。

しゃべる昆虫が多数出現したら、人権……、いや、虫権に配慮する風潮になっていくのも時間の問題であろう。


「虫に対してひどいことしてるのかもしれないけどね。ほかに食べられる物もあるんだし。まあ、怒ってたのはそんな食い散らかしてるとこ見られたくないのに、ロシュがノックしないで入ってきたからだよ」
「ノックはしたよ……何度も言ってるようにノックはしたよ、クイちゃん」
あきらめたような、それでいて温かみを感じさせる目をしながら、ロシュはクイスに言い返した。

 

(アパート編「手袋」15話につづく)