スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

アパート編「手袋」13話(全15話)

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(登場キャラクター↓)

登場キャラクター、サリー、クイス、ロシュ、レファラ、スイカ

 

アパート編「手袋」13話(全15話)

 

201号室

201号室


サリーとスイカは、黙ってソファに座っていた。

どう話を切りだしたものか、迷っていたからだ。


クイスが水の用意をする横で、ロシュがみずからのアームを付け替えて、部屋の掃除をしていた。掃除機アームだ。ロボットであるロシュは、用途に応じてアームを付け替えて作業をする。


「ごめんね、いきなり掃除してて。すぐ終わらすから」
そう言ったロシュの掃除機の音はそれほど大きくなかった。軽やかなロシュの掃除音をBGMにするかのように、クイスは水が入ったビンをテーブルに置いたあと、サリーとスイカと向き合うようにソファに座った。


「で、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねえよ。お前こそどうしたんだよクイス」
サリーが答えた。
「どうしたって……どうもしないけど」
これではらちが明かない。そう判断したスイカはズバッと切り出すことにした。

「ロシュさんとケンカなさっていませんでしたか?」
「ケンカ? したっけ?」
クイスがロシュがいる方向に問うと、掃除をしていたロシュが振り返った。
「ケンカではないんだけど……『ノックしろ』って僕がクイちゃんに怒られたことを言ってるんじゃないかな、スイカは」
「ああ、あれか!」
「涙のケンカ劇でございました」
「違うって~! もお~! スイカは大げさだなあ」
「確かに大げさだな」
ここまで黙っていたサリーが、うなずきながらクイスの言葉を肯定した。


スイカは、つるりとした態度でサリーの言葉をスルーした。

そしてさらにクイスに迫った。

「で、では何だったのでしょうか、あのときのあの緊迫ムードはいったい」
「たとえ相手がハニーでも邪魔されたくない瞬間って……、あるよね」

クイスが意味ありげに言った。

 

「わたくしハニーがいたことがないのでわかりませぬが、そういうものなのでしょうか?」
「そういうものなんだよ、ね、サリー」
「なんで俺? いや俺は別に」
「しかし、いったい何なのでしょうか? 何がそれほどまでにクイスさんを夢中にさせていたのでしょうか? ロシュさんを遠ざけさせるほど、クイスさんを虜にするものとは、いったい……」
「さあ……何だと思う?」
クイスの目がきらりと光った。


「い、いったい何でしょうか……。夢中になれるもの……」
スイカはすさまじい苦悶の表情で悩みはじめたが、それも一瞬だった。ロシュがあっさりと横から答えたからだ。
「虫だよ」
「虫?」
サリーがロシュの言葉を繰り返した。


「クイちゃんの大好物。クイちゃんはスイカも好きだけど、虫も好きだから」
クイスの先祖はキツツキである。先祖は木の中に住む虫を食べていた。
もはやキツツキとは言えないほど進化した今もなお、虫を食すことがクイスに喜びをもたらす、らしい。

 

クイスはロシュにあっさりネタをバラされて、なぜかうれしそうに笑った。
「まあそういうこと。いろいろあって、どうっしても虫が食べたくなって、1週間前に買ってきたんだよ。わざわざ宇宙船でほかの星の鳥類御用達デパートをいくつもめぐってね。涙が出るほどおいしかった……」
うっとりとクイスは言った。

 

「ん? 1週間前?」
サリーがクイスの言葉を聞きとがめた。
「そうだよ」
「1週間前っつうと、ちょうどアレじゃねえか、スイカ、オマエが落とし物拾った……いや拾ってねえけど」
「ハッ、そうでした。落とし物を発見したのが1週間前でした……ですがサリーさん、それが何か」
「え? いや……何だろう、なんか引っかかるような……。つうか落とし物、アパートのド真ん前の地面に棒でぶっ刺しておいたんだけど、クイスたち気づかなかった?」
「1週間、部屋にこもりきりで虫を食べていた俺に何を聞いてもムダさ!」
クイスは、やけにさわやかにそう言い切った。

 

「ああそう……。まあクイス、とりあえず見てくれ。ロシュも。レファラは自分のじゃねえって言ってるし、オマエらどっちかのだろ、これ?」
サリーはポケットから落とし物を出して、テーブルに置いた。パサついた音がした。今までになく軽い音がしたように、サリーは感じた。


「あ、これ……!」
クイスが言った、その瞬間。


テーブルの上の落とし物が、ふわりと薄らいで、空気に溶けた。


「消えた……?」
「消えました!」
サリーとスイカが同時に声を上げた。

 

(アパート編「手袋」14話につづく)