スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

アパート編「手袋」12話(全15話)

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(登場キャラクター↓)

登場キャラクター、サリー、クイス、ロシュ、レファラ、スイカ

 

アパート編「手袋」12話(全15話)

 

階段

3階階段

 

「わたくし、レファラさんのお話の後半、まったく聞いておりませんでした」
レファラの部屋を辞して、ようやく我に返ったスイカが、階段をゴロゴロ下りながら言った。
「まあ妙な顔してるなとは思ってたけど」
サリーもまた、階段を下りながら言った。


「知りたがってはいけないのでしょうか、レファラさんが何を食されているのか」
「ふだん食べてるのは合成食品だろ」


さまざまな種族の生き物が同じ社会で生きているこの時代では、化学的に合成された食品以外の、天然の食べ物を食べているとはあまり大っぴらに言えなかった。
いや、言っても構わないが、周囲から野蛮な者とみなされた。
さらに言えば、ポリスステーションやコートがある星限定の話ではあるが、天然の肉を食すことは犯罪とされていた。
(アパート星にはポリスステーションもコートもどちらもなかった。アパート星にはアパートしかない)

2階階段

天然の肉を忌避する風潮は、主に肉を食べる、肉食動物に対して特に強く作用した。
そのため、天然の肉の代わりになる、合成肉の需要は多かった。

そういった、合成肉を必要とする生き物たちの需要が悲痛かつ喫緊のものだったこともあり、合成肉は、ほかの合成食品よりも優先的に、多くの企業によって開発され普及した。

 

そのような企業努力の甲斐あってか、この時代の市場に出回っている肉は、すべてが合成肉だった。安くておいしい、栄養も申し分ない合成肉が十分に流通していた。
それに対し、肉以外の合成食品は、味も価格も栄養素も、まだまだこれからの分野だった……

 

……といった内容の、合成食品に関する現状を、サリーはスイカに長々と説明した。


「ふむふむ、なるほど」
「まあ、そういう状況があってだな」
サリーがスイカに、長々と、延々、懇切丁寧に全力で説明しているあいだに、とっくに201号室のドアの前に到着していたが、話が終わっていないのでドアの前で立ち話をする格好になった。

 

「わたくし、ふと疑問に思ったのですが」
スイカがサリーを見上げて言った。
「お、何だ?」
「なぜ私たちは、201号室の前にいるのでしょうか?」
「え、そこ?」
「サリーさんが説明してくださっているので、話の腰を折ってはいけないと思い、黙っていたのですが、なぜロシュさんの部屋を素通りされたのでしょうか?」
「……」


サリーとしては、特に深い意味はなかった。

食品に関する説明に気を取られているあいだになんとなく、なにげなく階段を下りすぎてしまった、ただそれだけのことだった。
しかしサリーは、そんな『なんとなく現象』のことまで丁寧に説明する気はなかった。
というわけで、サリーは黙って201号室のドアをノックした。

 

201号室

201号室

 

「はあい」
クイスがドアを開けた。
「あれっ。クイス?」
サリーが驚きの声を上げた。


「何だよ、ここは俺の部屋だよ。俺の部屋に俺がいても別におかしくないでしょ」
クイスはぶつくさと言った。
「で、何か用? さっきからサリーとスイカがアパート内をウロウロしてるってロシュが言ってたけど」
「僕はウロウロとは言ってないよ……。まあ、入ってもらったら? 立ち話も何だし」


ロシュが部屋の中からクイスに言った。ちょうどロシュがクイスの部屋を訪れていたところだったようだ。
「そうだね、それじゃどうぞ」
澄ました顏でクイスはドアを大きく開き、サリーとスイカを部屋に招きいれた。

 

(アパート編「手袋」13話につづく)