スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

アパート編「手袋」9話(全15話)

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(登場キャラクター↓)

登場キャラクター、サリー、クイス、ロシュ、レファラ、スイカ

 

アパート編「手袋」9話(全15話)

 

301号室

301号室


サリーは301号室のドアをノックした。


返事はなかった。


もう一度ノックしてみたが、やはり返事がない。

「……? アパートしか行くところがねえアパート星で返事がねえって……」
「事件の『かほり』がいたします!」
サリーとスイカのあいだに、にわかに緊張が走った。

 

「!……!!…………!?」
緊張したはいいが、どうすることもできなかった。

 

アパート星にはアパートしかない。交番やポリスステーションはない。

 

「わたくし、クイスさんの心配ばかりしていましたが、ロシュさんのほうがむしろ危なかったのでしょうか」
スイカが絞りだすように言った。
「危ないって何だよ……。ノックの返事がないくらいで、まだわからねえだろ」
言うが早いが、サリーはドアを激しく叩いた。
「おい! ロシュ! いるなら返事しろ!」
「いるけど」


サリーたちの背後からロシュの声がした。ロシュは廊下にいた。
内階段から3階の廊下に出て、サリーたちのそばにやってきたところだった。


301号室のドアの前に立っていたサリーに、ロシュはさらに言った。
「部屋に入りたいんだ。道を開けてほしいな」
そう言われて、ロシュが通れるようにドアの前を避けつつ、サリーはロシュに尋ねた。
「どこに行ってたんだよロシュ」


「言わなければならないかい?」
「言わなくても構わないと思います」
なぜかスイカが断言した。


「なんでオマエが断言するんだよ」
スイカの謎の断言に、サリーが反発した。
「アパートしかないアパート星で、自分がどこに行っていたかを周りに逐一報告していたら、息が詰まってしまいましょう」
「いや、そうかも知れねえけど、緊急事態は別だろ」
「緊急ではないようにお見受けしました」
サリーとスイカがそんな会話をしているあいだ、ロシュは自室のドアを開けて、中に入った。
そして、ドアを開けたままサリーとスイカの話を聞いていたが、やがて口を開いた。


「僕が行ってたのは屋上だよ。部屋にいると気が滅入るから、気分転換に屋上に行っただけ。聞いてどうするんだよ。このアパートのほかにどこに行く場所があるというんだい? アパート星にはアパートしかないのに」
ロシュは憂鬱そうな顔でそう言うと、ドアを閉めようとした。ドアが閉まりきる前にスイカが言葉を発した。


「ロシュさん、手袋はロシュさんのものではありませんか?」
その言葉に、ロシュは動きを止めた。顏だけをスイカに向けて言った。
「ああ、さっき言ってた手袋のこと? そうだ、手袋を探す途中だったね、ごめんスイカ」
「いいえ、サリーさんが見つけてくださいましたので」

「そう。見つかったならよかった」

ロシュはそう言うと、体ごとスイカのほうに向きなおった。


「手袋ね。僕のではないよ。僕は鉱石を掘ったりする際に、用途によってアームを付け替えるんだ。アームごとに専用カバーが付属してるから、手袋のようなものといったらそういう物しか持ってないよ。そして僕はカバーをなくしたりはしていない。見るかい?」
「! はい、是非! 見ても構わぬのでしたら」
スイカは興味を引かれたように目を輝かせ、身を乗りだした。サリーも興味を引かれたのか、ロシュのそばに近寄ってきた。


「構わないよ。腕の収納場所に入ってるから、少し待って」
そう言うと、ロシュは自分の二の腕のどこかを押した。
すると、ロシュの腕が伸びた……ように、サリーとスイカには見えた。
服の下でもぞもぞ動き、伸びた部分の腕に収納されていた物を器用に取りだすと、ロシュは言った。


「これがこのアームのカバーだよ」
ロシュのアームカバーは、ひとことで言えば「長い手袋」だった。長い筒状の部分に指が5本ついていた。ロシュが今つけているアームにぴったり沿うように作られたものだった。


何という素材でできているのかサリーとスイカにはわからなかったが、繊維で織られたものではなく、何だか新感覚なプニプニした触り心地のアームカバーだった。
「プニプニしてる」
サリーが言うと、スイカが衝撃を受けたかのような顔をした。


「プニプニとは……! いったいどのような感触なのでしょうか……! わたくしスイカ、この丸っこいスイカボディひとつで生きてきたため、感触というものがさっぱりわかりませぬ……! プニプニ……!」

「プニプニ? えーと……『プルプル』と『むにむに』のあいだ? いや、まあ、いいだろそれは」

サリーは、スイカに『プニプニ』感の説明をすることを早くもあきらめ、ロシュにアームカバーを返した。


「クイスとケンカでもしたか?」
「クイちゃんがそう言ったの?」
ロシュは、腕の収納場所にアームカバーを戻しながら、サリーに聞き返した。
「いや、『ほっといてくれ』って言われた」
「そうか……。今はまだ、早いのかもしれない」
「早いって、何が」
「もう少しだけ時間が必要なんだと思う」
そう言い残し、ロシュはドアを閉めた。
301号室のドアの前で、サリーとスイカが取り残された。

 

(アパート編「手袋」10話につづく)