スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

アパート編「手袋」5話(全15話)

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(登場キャラクター↓)

登場キャラクター、サリー、クイス、ロシュ、レファラ、スイカ

 

アパート編「手袋」5話(全15話)

 

201号室

201号室


軽やかに階段を駆け下り、クイスの部屋の前にたどり着いたロシュは、201号室のドアをノックした。

 

……。

 

返事はない。


「クイちゃん?」
恐る恐る、といった様子でロシュがクイスの部屋のドアを開けた、次の瞬間。
「!!」
ロシュの顔が驚いたように固まった。

 

スイカはおっとりのっそりゴロゴロと、やっと階段からクイスの部屋の前につながる廊下に転がり出たところだった。
ロシュの驚きの表情を見て、スイカも驚いた。スイカははいったん転がるのをやめた。
スイカのいる場所からは、クイスの部屋の中は見えない。ロシュが何に驚いたのかはわからなかった。


「だから! ノックしろって! 言ってるのに!!」
クイスの声が部屋の中から廊下に響き渡った。
「ゴメン! ノックはしたよ! したんだけど!」
ロシュは、謝ったあと、クイスの部屋の玄関に入っていった。
「ごめんスイカ、また後で」
そうスイカに断ると、クイスの部屋のドアを閉めた。
ドアを閉める前にクイスの泣く声が聞こえた。

 

スイカは少し不安になった。
クイスが泣いている理由がロシュにあるのなら、2人きりにしてしまって大丈夫なのだろうか。
しかし、2人は恋人同士らしい。そういった関係なら、2人にしかわからない謎の機微があるのかもしれない。
部外者はいないほうがいいのだろうか。
そもそもロシュもクイスも「人」ではないのだが、つい「2人」「恋人」を心の中で連呼するスイカだった。

 

しばらくその場で考えていたが、スイカはやがて逆回転で動きだした。廊下から階段の方向へ転がった。
スイカは、クイスのことはロシュに任せることにした。


クイスは解体屋を生業にしている。
宇宙船を解体できるほどの硬度のクチバシを持っている。
宇宙船が解体できるのなら、その気になればロボットだって解体できるだろう。
とんでもない想像ではあったが、スイカは自分のその想像にわりと納得した。
クイスはよく泣くが、特に弱いとはスイカは思っていなかった。

 

401号室

401号室

 

「で、あたしのとこに来たの?」
401号室の住人、レファラが言った。

 

「はい……」
スイカは401号室の玄関先でぼんやりと答えた。
「ふうん……、手袋は?」
「ハッ」
スイカは、落とし物をなくしたことをすっかり忘れていた。
『落とし物のことを聞かなければ』という一心で4階まで上ってきたが、当の落とし物をどこかに落としたままだった。


「そうでした、落とし物をなくして探しているところでロシュさんとクイスさんが修羅場で」
「修羅場なのかなあ、それ……。その場にいなかったから、あたしには何とも言えないけどさあ。まあ、入って」

 

スイカはレファラの部屋に入った。相変わらず薄暗い。
レファラは先祖がコウモリのような生き物だったため、視覚よりも聴覚が発達していた。


「うーん。エコーロケーションで探せるものなら探すけどさ。ロシュくんがすでに似たようなことやってるんだよね?」
スイカにイスを勧めつつ戸棚からカップを取りだして、レファラは言った。そして、テーブルの上のピッチャーからカップへ液体を注いだ。

 

ピッチャーの中身は水だ。アパート星の住人はだいたいみな、水を飲むことを好む。
ロボットであるロシュだけは例外だったが、ほかの者はコミュニケーションのおともに、水を好んだ。
なぜなら、相手がどのような食べ物や飲み物を摂取できて、どのような物を避けなければいけないのか、正確に把握することが難しかったからだ。


アパート星の住人たちは、全員が違う種族の生き物たちだった。
自分と違う種族の、種族的な体質から個別の好みまで網羅するような熱意のある者は、こんなところにいない。
アパートしかないアパート星に住むような生き物たちにそんなことを望んでも仕方がない。
そんなどうしようもなくアレな現実が、アパート星の住人たちに水を好ませていた。

 

(アパート編「手袋」6話につづく)