スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編10話「割引券」

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ハマり編10話「割引券」

 

「あ~寒そう。雨降ってる……」

サリーの宇宙船は、隣の星の宇宙ポートに着陸した。予定通りの時刻だった。船内のナビによると、サリーが指示した通り、隣の星の一般向け駐船場に無事停まっているようだ。そしてナビによれば、外は雨らしい。

無事に着いた。ひとまずサリーは、当たり前の現実にほっと息を吐いた。

窓のシャッターが自動で開き、景色を見られるようになった。窓の外では、確かに何かが降っていた。

窓の外に降るものは

 

「雨、ですか……?」

スイカが思わずといった感じで問い返した。またどこかに行かないよう、サリーの膝のあいだにサリーの手でガッチリ固定されたままだった。

「ヒョウかな? 何て呼ぶのか知らねえけど」

窓の外では氷が降っていた。

 

「あ、オマエ服着てねえけど寒くはねえの? 俺は今、冬毛だから薄着でもそれほど寒くねえんだけど」

「寒い……というのがどういう状態なのかわかりませぬが、たぶん大丈夫です。寒すぎたらアイススイカになってしまうかもしれませんが、大丈夫です」

「それ大丈夫なのか? というかアイススイカって何?」

「大丈夫です」

大丈夫らしい。「大丈夫」の応酬をしすぎて「大丈夫」の意味がわからなくなりつつあったサリーは、「大丈夫」について考えることを早々にやめた。大丈夫。深い意味はないから考えなくても大丈夫。サリーは、そう己に言い聞かせた。

 

「雨避け持ってこなかったな……。つっても『Dm(ディー・マイナー)』、今は宇宙ポートのそばに店があるみたいだからそんなに濡れねえか……」

『Dm』は、サリーとスイカがこれから行こうとしている店の名前だ。サリーがシートベルトを外すあいだ、スイカは自分の席に戻り、ゆらゆら前後に揺れていた。ゆらゆら揺れながら、サリーに尋ねた。

 

「お店が移転したのですか?」 

「ああ、宇宙船を店にしてるんだよ。俺は燃料もったいねえからやらねえけど、星の中でも宇宙船を飛行機がわりに使って移動してるんだとさ。まあ宇宙ポートのそばの駐船場にいることが多いけどな」

だいたいのことは何でもできる端末『EVY』を操作して、宇宙ネットに公開されている現在の『Dm』の位置情報を確認しながら、サリーは言った。

 

「んじゃ行くか。すぐ近くにいるっぽい」

「おお……! ついに隣の惑星の大地を踏みしめるときがやってきました……!」

何やらそわそわドキドキしているような面持ちで、スイカは言った。

サリーはそんなスイカの様子を見て、なんだか不思議な気持ちになったあと、我に返った。ラゲッジスペースに積みこんでおいた、『Dm』に下取りしてほしいジャンクパーツを詰めこんだコンテナをどうするのかという問題が残っていた。いきなり店に持っていっても、下取りを断られたらまたここに持ち帰らなくてはならない。サリーはいったんコンテナをここに置いて、先に店で交渉することにした。

 

宇宙船の扉が自動でスライドする。

「んじゃ行くか」

「はい!」

そう答えると、スイカは元気いっぱいにバビョーンと飛び跳ね、スタッと隣の惑星に降り立った……はずが、つるりとすべって回転した。そしてそのままの勢いでツツーッとすべり始めた。地面が凍っていたらしい。

 

つるり、ステーン、ツツーッ

 

 

「えっ。おい、待てストップ!」

「ストップと言われましても止まれませぬ!」

やけにはっきりとサリーにそう答えると、スイカは器用に右に左によれながら徐々に勢いを上げた。

 

大型宇宙船の巡回の合間にあたる時間帯のせいなのか、周りには誰もいなかった。ぶつかって誰かを困らせることはないのかもしれない。そう思ったせいなのか、サリーの追いかける足が、それほど本気を出してくれない。具体的には、凍った地面に負けてツルツルすべりそうになり、本気でスイカを追おうにも追えなかった。

 

サリーがもたもたツルツルしているうちに、スイカはジャンプ台に差し掛かった。

いや、ジャンプ台ではない。誰かが跳ぶために設置されたものではないだろうが、ジャンプ台としか言いようのない位置に、ジャンプ台そのもののような角度、そしてジャンプ台のような雰囲気でジャンプ台が設置されていた。風情がすでにジャンプ台そのものと言いたくなるジャンプ台だった。ジャンプ台。

 

「うわ、何だあのジャンプ台! おいスイカ、ジャンプするな!」

ツツーッとすごいスピードで遠ざかるスイカを、自分もすべりそうになりながら追いかけつつ、サリーは叫んだ。

「ええっ! しかしあのジャンプ台はジャンプ台にしか見えませぬ!」

またしても、やけにはっきりスイカは言い切った。転がるのではなくすべっているため、余裕があるのかもしれない。

ジャンプ台

 

周りに誰もいないので、誰かにぶつかることはない。サリーはその心配はしなくて済んでいた。しかしスイカはジャンプしたあと、どうやって着地する気なのか。どこに着地する気なのか。ジャンプ台の向こうは川だった。遠くてよく見えないが、川は凍っているようにサリーには見えた。

 

サリーは走るのは得意だったが、ツルツルすべる地面は別だった。なかなかスイカに追いつけない。地面がツルツルさえしていなければ、簡単に追いつけそうなのに。サリーが、凍ってツルツルになった地面に向かって何らかの感想を言いたくなった時、川の上に生き物の影が見えた。やはり川も凍っていたらしい。その上を歩けるほどに。

 

川の上に乗った誰かは、動いている。

手に何かを持っている。

持っていた物を、凍った川の上に置いた。

 

この行動が何を意味するのか、サリーにはよくわからなかった。が、そこにいるのが誰なのかはわかった。

「レファラ!」

『Dm』の店主、レファラだった。地面に置いたのは格子だ。レファラは大きな格子の横に立ち、倒れないよう支えていた。

凍った川の中ほどに、レファラさん

 

「黄色ゾーンに入ったら100点。3%割引券あげちゃう」

レファラは、小さいがよく通る、不思議な響きかたをする声で言った。

「!! スイカ、あそこだ、黄色いとこ狙え!」

いつのまにかサリーは乗せられていた。スイカを止めるどころか、狙うべきポイントをスイカに叫んでいた。

 

「黄色いところですね! 任せておくんなせえ!」

いつの時代の言葉なのかわからぬ、いにしえの言葉を語尾に引っさげて、スイカは断言した。どうやってなのかスピードを上げてジャンプ台に乗り、その速度に乗ったまま、宙に浮かんだ。川の中央でレファラが支えている格子に向かって跳んでいく。

 

ずっばああああん!

100点

 

格子にハマった。スイカは黄色いエリアに見事着地した。3%割引券だ。

 

「さて。お客さんですかね?」

「お、そうそう。セールのお知らせ見たんで来たんだよ」

「『ふくぶくろ』とは、どういったものなのですか?」

スイカは格子にはさまったままレファラに尋ねた。

格子にハマったままのスイカと、その他2名

おそらく店の方向に歩いているのだろう、格子ごとスイカは運ばれていた。なりゆき上、サリーもそれにくっついて歩く格好になった。

「それは開けてのお楽しみ。お二方とも、いらっしゃいませ、レファラの店『Dm』へ」

レファラの店

 

レファラの宇宙船は、サリーのものより一回り大きかった。サリーが宇宙船を停めた場所からは少し離れていたが、ごく近くに停船していたようだ。スイカのジャンプ台で跳びたい事件さえなければ、降ってくる氷に濡れる間もなくたどり着いたのかもしれない。しかしあの1件があったからこその3%割引券だ……と考えたところでサリーは気づいた。あのジャンプ台を仕込んだのはレファラなのだろうか?

 

「客全員に跳べっつってるのか?」

もしそうなら、なんと恐ろしい店だろう。割引きと引き換えにする物が大きすぎる。店内に入ったサリーは、まずそのことを確認してみた。

「んなわけないでしょう。スイカくんが来るとは知らなかったし、サリーくんにあんなことしろと言ったところで、できないでしょう」

レファラはあきれた顔で言った。それもそうだ。

「ではあのジャンプ台としか言いようのないジャンプ台は、どなたがどういった目的で置いたのでしょうか」

スイカはレファラの手で格子から外されながら尋ねた。

「まあ、置いたのはあたしなんだけど」

「やっぱりアンタか」

 

「別に客に跳べと言ってるんじゃなくて、物をさあ、飛ばしたらどうかなと思って」

「意味がわからねえ」

「『ここら辺に住んでるけども配送はしてほしい』という要望はあるわけよ。んで、『お互い配送にかかるコストをできるだけ下げたいね』という話をしててさ。できたのがアレ。地面がちょうど凍ってるから、すべらせたあと向こう岸に飛ばしたらどうかっていう」

「向こう岸にはたどり着けない気がします」

「だよねえ。今日スイカくんが飛ぶとこ見て、あたしも気づいた。あれでは無理だわ」

 

「ジャンプ台の角度を変えたらどうでしょうか」

「うーん……やってみる? スイカくんが協力してくれるなら、ジャンプ台いくらでも設置し直しますよ」

「やりましょう!」

スイカは即答した。サリーが少し慌ててスイカに尋ねる。

「お、おい。そんな長居する気なのか」

「サリーさん、宇宙船をメンテに出すとおっしゃっていたでしょう? ですから、その間に私がレファラさんのお手伝いをできればよいかと思いまして」

「あ、それもそうか。そうだった……。そうだ、あと下取り」

 

サリーは下取りをお願いできないか、交渉する予定だったことを思いだした。

『下取り』という言葉を聞いて、レファラは表情を変えず、体をサリーのほうに向けた。

下取りという言葉に反応したレファラ

 

(ハマり編11話につづく)