スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編9話「引き寄せるパワー」

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ハマり編9話「引き寄せるパワー」

 

スイカはどこにいるのか。

『窓のシャッターが開いた』とスイカは言っていた。

その言葉で、サリーにはスイカの居場所の見当がついた。

 

航行中にシャッターが開く窓は、船の上部にある窓だけだった。何しろ航行中、宇宙に無数に存在する塵や石、もしくは宇宙ゴミの類が、進んでいる船にぶち当たりまくる。

1回だけの航行ならまだしも、何度も何度も宇宙を航行するための自家用宇宙船である。なのでサリーは、宇宙航行中、進行方向に相対している窓のシャッターを閉じるようにしていた。ほとんどの窓は、船体が動いていない着陸時のためのものだった。

 

目的地である隣の星に到着するまで、まだ時間があった。航行も安定していたので、サリーは席から離れ、スイカがいるであろう場所に向かった。

 

船内は狭い。

西暦3020年、隣の惑星までの日帰りの往復が当たり前になったこの時代では、航行者の居住スペースを作る必要はなく、宇宙船も全体に小型化していた。燃料の軽量化、省スペース化も進んでいたが、そもそも船体自体が小さく重量が少ないため、燃料も昔よりは少なくて済む。

(向こうに着いたら燃料補給して、帰りの分の燃料も積んでおかねえとな)

そんなことを考えながら、サリーは燃料を積んだ一角を通りすぎた。

 

スイカはいた。

荷物を積みこむ、ラゲッジスペースの上のほうに貼りついていた。

 

スイカ発見

 

が、格子の向こうにいた。

特に意味はないが、余ったのでサリーが何となく付けた格子だ。これが柵のような役目を果たし、船内のこちらとそちらを分断していた。格子の先には窓しかないので、サリーとしては特にそこを通る必要もなく、この柵は動かない。窓の外を見たところで見慣れた暗い空間が見えるだけで見るべきものは特にない、とサリーは思っていたため、このような立ち入り禁止の窓のような状態になっていた。

 

それでも窓のシャッターを開けているのは、光のためだった。模造太陽の光が船内に入るため、船内が真っ暗ではなくなる。暗闇の中でも見えるとはいえ、照明をつけなくても明るくなるならそれに越したことはない、とサリーは考えていた。

 

どうやって柵の向こう側にスイカが入ったのか。

サリーにはだいたい見当がついていた。

窓の外にくぎづけになっているスイカの後ろ姿に、サリーは言った。

 

「おいスイカ。オマエ排気ダクト壊してねえだろな」

スイカはその声に反応して振り返った。

スイカに耳はないように見えるが、音は聞こえているらしい。鼻がないからにおいがわからないというのはやっぱりおかしいのではないのか、という疑問がサリーの頭をかすめた。が、スイカの次の言葉でその疑問はどこかに行ってしまった。

 

「サリーさん! 窓の外がすごいです、すごいスピードです!」

興奮気味にスイカは言った。この宇宙船であれば、隣の星まで2時間ほどで到着する。スイカの日常に存在するスピード感とはまったく違う速さなのだろう。スピード感を感じるといっても窓の外には石のような、塵のようなものしかないが、それが恐ろしいほどのスピードで後ろへ流れていくとスイカは言いたいのであろう。

 

「おお。そうか。……」

今どき宇宙船の窓から見える景色に大興奮する生き物の気持ちが、サリーにはまったくわからなかった。サリーにとっては宇宙空間よりもスイカの大興奮のほうが不思議だった。

「このような光景、初めて見ました」

はふう、という吐息とともにスイカは言葉を吐きだした。

 

「初めて? 辺境の星に来る時は見なかったのか?」

「はい。なにしろ、わたくし荷物として運ばれていましたので」

かつてのスイカ

 

「荷物……食べ物としてってことか?」

「そうだと思います。当時わたくしシャイだったもので、誰とも会話できず、狭い箱のようなものに閉じこもり、自分が何のために運ばれているのかも知りませんでした、お恥ずかしい」

「いや……」

 

シャイとかそういう問題なのだろうか。スイカがしゃべらないのは当たり前なのではなかろうか。というかなぜスイカがしゃべって動けるのだろう。

「なんでオマエしゃべれるの? んで動けるの?」

気づいたら思ったことをそのまま口に出していたサリーだった。

「私に聞かれましても」

「いや、そうじゃなかった、そんな質問、俺が聞かれても答えられねえわ、そうじゃなくて。オマエ排気ダクト通っただろ?」

「あの狭い通路のことですか? はい。わたくし、気づいたら天井付近に浮いていてですね」

「なんで?」

「私に聞かれましても」

「あー、いや、すまん」

旧式ながら壊れてはいないと思っていた重力装置が壊れているのかもしれない。隣の星についたら、点検をしたほうがいいのかもしれない。『ふくぶくろ』を買うためだけに隣の星に行く予定だったが、思ったよりも長く滞在することになるかもしれない……サリーはそんな予感がした。

 

「起きたら天井にいたというショックで、わたくし超能力が暴発してしまい、ネジをついウッカリ外してしまったのです」

ついウッカリというわりには、やけに細やかに暴発したものだ。と思いつつも、サリーは別のことを聞いた。

「ネジってどこのネジだよ」

「狭い通路の入り口の格子を留めていたネジです」

「……おう。しまった、もっと小さいサイズのダクトを使うんだった……」

スイカが通れる太さのダクトを宇宙船に使ったことをサリーは後悔した。

 

「そして狭い通路をあてどもなくゴロゴロ転がっているうちに、出口にたどり着きました。すみませんサリーさん、あまりにもわたくし狭い通路から出たかったため、またもやネジを外してしまいました」

ネジ外しスイカ

 

「おう、オマエ隣の星に着いたら、今度は超能力でネジ締めろ。外したネジは自分で締めてください」

「はい。それはもう。超能力でネジを回すの、楽しいですね。やみつきになりそうです」

サリーにはよくわからない感想をスイカは漏らした。

 

「というかよ、戻ればよかっただろ、来た道をゴロゴロと」

「それもそうですね。もうあのとき、わたくし、『出してくれ! ここから出してくれ!』状態になぜかなってしまいまして」

「自分から入っといてオマエ……」

「ということで赤い格子を外して今ここにいたります」

「赤いものってこれか……」

サリーは、格子の上に落ちていた小さな格子に視線をやった。サリーにはどう見ても黒っぽい色にしか見えなかったが、これが赤い色をしているのだろう。色に関してサリーはあまり興味がなかった。

 

船内に警告音が鳴った。

「あ、やべ。席に着けってよ。もうすぐ到着だ」

「わかりました、ではここから出ます」

柵の向こうのスイカは、新たな格子のネジを外しはじめた。

「ちょっと待て、新たな道を開拓するな。来た道を戻ればいいだろ」

「ですが……今まで通ってきた道は何やら逆風が」

スイカが通ってきたのは酸素を船内に供給するためのダクトだった。よく考えたら呼吸に使う酸素の通り道をスイカがゴロゴロ転がっていたことになるが、そんなことを気にするような繊細さを、サリーは持ちあわせていなかった。

 

「逆風を気にするようなタイプかよ……。強引に通れねえの? ゴロゴロっと」

ネジを外し終わったのか、ダクトの先についていた格子がガチャリと音を立てて格子の上に落ちた。

「対してこちらのルートは何やらひきこまれるようなものを感じます。謎の私を引き寄せるパワーが発生しているかのような」

「ちょっちょっと待て。そら二酸化炭素を取り除く装置に」

「あああ~引き込まれるぅうぅ~」

「装置につながってるダクトだって言おうとしてんのにオマエってやつは!!」

手がつるり

格子から手を突きだしてスイカを止めようとしたが、サリーの手は、むなしくスイカの表面をつるりと撫でたのみだった。スイカはふらふらとダクトの暗闇に飲みこまれ、見えなくなった。

 

「ああもう! どこだ、次はどこに排気口作ったっけ」

サリーは頭をフル回転させて宇宙船の設計図を思いだした。

フル回転

「トイレだ」

サリーはトイレに向かおうとしたが、思いついてラゲッジスペースに戻った。以前ジャンク屋で買い物をした際、辺境の星に帰るまで待ちきれずにここで機械を組み立てたり、解体することがあった。その時に使ったドライバーがまだ置きっぱなしになっていた。

片づけていなくてよかった。自分のだらしなさに感謝しつつ、サリーはドライバーをつかむとトイレに急いだ。

 

トイレの排気口についた格子のネジを外す。

1つ、2つ。3つ。

急いでドライバーを回す。……4つ。

ネジは全部で8つだ。

まだスイカはここを通過していない。

においから判断した。

こちらに向かっている。

 

これは合っているはずだ。いくら何でも、ダクト内のスイカと排気口付近のサリーに大した距離があるとは、サリーには思えなかった。この距離で間違えるはずがない。配管の都合上、この辺りのダクトはウネウネグネグネと曲がりくねり、長かった。

ネジが外れた。

これで5つ。

あと3つ。

 

この排気口を通過すると、ダクトは二酸化炭素を取り除くための装置にたどり着く。スイカが気体の流れに沿って進んでいるのならば、まず間違いなく装置にぶつかるだろう。それは困る。サリーは思った。装置が故障して二酸化炭素を取り除けなくなった場合、スイカもサリーも、二酸化炭素中毒になる可能性がある。

外れたネジがガチャリと音を立てて床に落ちた。

これで6つ。

あと2つ。

 

ネジを回す

さらに言えば、サリーの船の二酸化炭素除去装置は、リサイクルを行っていた。水から水素と酸素を作り、そして二酸化炭素と水素から水を作る。この装置が壊れたら、船内に酸素を供給できなくなる可能性があった。

 

ネジが外れた。

7つめ。あと1つ。

スイカのゴロゴロ転がる音が格子の向こうから聞こえた。先ほどから聞こえてはいた音が、やけに近く感じた。

(は、はやく)

焦った。

焦りで手がすべった。

ドライバーがサリーの手からすべりおちる。

まだ8つ目のネジは外れていない。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロ……!

サリーは、ドライバーをあきらめた。

格子をつかんで、そのまま回した。ネジの場所を中心にして、格子自体がぐるりと回転した。

格子を回す

 

ゴロゴロゴロ……ぱっしぃぃん……!

ぱっしぃぃん!

 

無事、手でスイカをキャッチした。

「ええいこのまま転がっていくんじゃねえ!」

「ハッ! 私としたことが、無になっておりました」

スイカは、二酸化炭素除去マシンに向けて無心でユラユラゴロゴロ転がっていたようだ。

 

「こんなとこ転がるんじゃありません! この先は二酸化炭素除去マシンがあって、壊れるとまずいの!」

お母さんのような口調でサリーが叱った。

「す……すみません」

スイカはガチ謝罪した。

「ったくよお……。メンテだな。向こう着いたらすぐメンテだ。2日はかかるぞ、宇宙船メンテ」

「は、はい」

スイカは恐縮気味にうなずいた。

スイカを逃がすまいと腕でガッチリホールドしたまま、サリーは席に戻った。

そろそろ到着だ。

 

(ハマり編10話につづく)