スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編8話「窓の外」

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8話「窓の外」

 

「ベルト締めたか?」

「締めましたが、締まりませぬ」

「なぬっ……」

狭い宇宙船にサリーとスイカが席についています、ベルトがしまらないスイカ

 

サリーの自家用宇宙航行マシン、要は2人乗りの宇宙船なのだが、その運転席でサリーは狼狽した。スイカとともに宇宙船に乗り込んだはいいが、飛ぶ以前にシートベルトが締まらないという事件が起きた。もう事件なのか何なのか、よくわからない。

 

事の起こりは、メッセージだった。

日記サイトにサリーあてのメッセージが来ていたのだ。

起きたばかりのスイカとサリーは、リビングでそのメッセージを読んだ。

朝のリビング、メッセージの確認をするサリーとスイカ

 

「お。Dm(ディーマイナー)。ジャンク屋からのお知らせだとよ」

「何ゆえ日記サイトにこのメッセージが?」

スイカはふと疑問を口にした。

「ほかの連絡先教えてなかったからなあ……」

「なるほど」

 

謎のメッセージにはこうあった。

 

『Dmウィンターセール!

全商品10%オフ!

激安だね!』

 

セールのお知らせである。謎も何もない気がしてしまうが、メッセージの最後にこうあった。

 

『ふくぶくろ……いかが?』

 

なぜかおどろおどろしい文字で書かれていた。ここだけフォントではなく、手書きの文字を使っていた。サリーにはなぜそんなおどろおどろ効果を狙うのか、まったく意味がわからなかった。わからないが、気になる。『ふくぶくろ』とはいったい……。

 

「『ふくぶくろ』とは何でしょうか」

くしくもサリーと同じ疑問を、スイカも感じたらしい。

「さあ……。俺にもわからねえ。けどまあ、たぶん言いたいのは、商品名はここでは言わねえが安くしますよとかそういうことじゃねえか」

 

サリーはこの前日に、クイスが持ってきた機械をようやく解体していた。買い出しに行った日に解体しようかと思っていたが、クイスとロシュのロマンスに巻き込まれ、それどころではなくなったので後日解体したのだった。

 

「解体で出た、俺は使わねえパーツとかも引き取ってくれっかなあ。俺、お得意さんなはずなのにそこら辺がなあ、なんかなあ、サービス悪いよなあDm」

「サリーさん、『ふくぶくろ』を買いに行くのですか?」

「うーん、まあ行ってみようかなと。掘り出し物があるかもしれねえし」

「私も行きたいです」

「あ、そう? 俺の宇宙船、定員2名のちっこいやつだけど、まあ乗れるだろ。んじゃメシ食ったら行くか」

 

そういった経緯で、宇宙船に乗り込むべく、駐船場に向かったスイカとサリーだった。メッセージをよこしたDmは、隣の惑星にある店だった。『ふくぶくろ』を購入するには、そこまで行かなくてはならない。

 

「配送サービスもしてくれるらしいけどよ、自分で行ったほうが早えからな」

駐船場に向かう車の中でサリーは言った。宇宙を航行するための燃料をできるだけ節約できる、なおかつ家から車で行ける場所という条件を満たした、サリーハウスとは別の場所に駐船場があった。

 

「これ全部サリーさんの宇宙船ですか?」

駐船場につき、車の後部座席から降りると、スイカは辺りを見回してからサリーに尋ねた。サリーの車が近づいた時に、建物のシャッターが自動で上がっていた。そこには3台の宇宙船が置いてあった。

駐船場に宇宙船が3台置いてあります

 

「んにゃ、俺のは一番向こうの1台だけ。ほかの2台はクイスとロシュの宇宙船だな。駐船場を共同で使ってんのよ。発射台とかを人数分作るのもアレだしってんで、みんなで宇宙船置き場を作って使おうかって」

「なるほど」

よく見ると、駐船場の建物は、つぎはぎだらけだった。建てた後に増築したようだ。この星に来てから3者が出会ったということなのだろう。

 

スイカとサリーは宇宙船に乗り込んだ。

そしてスイカのシートベルトが締まらない事件が起きたのであった。

 

宇宙交通法、通称「宇通法」では、「体型的にシートベルトを締めるのが無理な場合は自己責任でヨロシク」、いやそんな書き方はしていないが、だいたいの意味を抽出するとそのように定められていた。スイカがベルトをしていなくても、特に違法ではないということだ。が、スイカが自己責任をどう取れるというのか。万一船外に飛びだしても割れないのかもしれないが、割れるのかもしれない。

 

サリーはいったん宇宙船から出て、車に積んであったブランケットを取りに行き、宇宙船に持ち込んだ。そしてそのブランケットを使って、何やら雑な感じにスイカをイスに固定した。雑ではあったが、本人、いや本スイカはまんざらでもないようだった。

 

ブランケットでぬくぬくスイカ

「ぬくぬくしてて、眠くなります……。これは起きるころにはぬくぬくすぎて、わたくしホットスイカになっているかもしれません」

「寝るのは大前提なのか。んでホットスイカって何だ……」

サリーがそう言っているうちに、スイカはすうすう眠り始めた。

「はやっ。俺と会話する気ゼロかよ……」

 

宇宙船の航行中、誰かと会話することがあまりなかったサリーは地味にガッカリしつつ、操縦パネルに向かって自動操縦の指示をしはじめた。

航行と言っても、よほどのトラブルがない限り、機械がすべてやってくれる。サリーは隣の星の名前を機械に告げ、目的地に設定した。

操作が終わった。

サリーはシートに座ったまま、ぼんやりと窓のシャッターが下りるのを眺めていた。船内の照明はすでに消えていた。船内が暗くなる。

 

遠い先祖であるイヌの能力なのか、サリーは、暗闇でもまったく物が見えないわけではない。ロシュの動画はカメラを介して見ていたため、そこに何が映っているのかはサリーにもわからなかったが、実際の暗闇の中では、サリーに周りが見えないということはなかった。

以前、廃品置き場で、クイスが置きにきた機械を確認するために懐中電灯アプリを使ったことはあった。機械の確認は、細かい部分を見たかったためと、機械の特徴を嗅覚で判別できなかったためだったのだが、今はそこまで細かい作業をする必要もない。すべて機械がやってくれる。

 

すう、すう。

スイカの寝息が聞こえた。

宇宙船は加速しはじめていた。

外では轟音がしているはずだが、船内は静かだった。

加速によるGも、船内では感じられない。

 

船内の重力調整装置が作動する、わずかな音のみがしていた。

昔は船内で人間がふわふわ浮いていたということはサリーも知っていたが、西暦3020年代で、ふわふわ船内で宙に浮きながら宇宙を航行するものはいない。

 

サリーの宇宙船はサリーオリジナルだった。サリーが作った、サリーお手製マシンだった。サリーはメカニックで、機械を組み立てることが本業だ。このマシンも、サリーが生まれ育った星で、知り合いの作業所と協力しながら作ったものだった。作業量が多いため、自分単独で組んだ宇宙船はさすがにサリーも乗る気がしなかった。途中でネジが外れてバラバラになりかねない。どんな宇宙船だという感じだが、まあイメージとしてはそんなところだった。

 

というわけで、工業機械を持っている作業所とともに宇宙船を組みあげた。いろいろなパーツを組み込んだが、船内の重力調整装置はなかなか仕入れられず、仕方なく旧式のものを使うことになった。

旧式なため、反応が遅い。しかし、旧式とは言っても壊れているわけではなかった。命にかかわる事態にはならなさそうだったので、自分だけならまあいいか、と思い、そのままにしていた。それがここに来てこんな事態を引き起こそうとは、サリーには思いもよらなかった。

 

スイカが席から消えました

すうすう言っていたスイカの寝息は、サリーが気づいた時には隣から消えてしまっていた。重力が一時的に変化し、ブランケットともども船内で宙に浮いてしまったらしい。その後どこに行ったのかわからない。

(は、はやく。早く作動してくれ)

サリーは心の中で思った。そして思い直した。

(いや作動はしてたよな……、重力調整装置の音はしていたはずなのに、なんでアイツふわふわ浮いてるんだ?)

 

それは誰にもわからない。いい夢を見ているのかもしれない。心がウキウキするような。心がウキウキしたからといって体が宙に浮くかどうかと言ったら、また別の話ではあるが。

基本的に、宇宙船が動いているあいだは席から離れないほうがいい。それがこの時代の常識だった。サリーはスイカがどこに行ったのか、シートに座ったまま探ろうとした。鼻に意識を集中する。

 

においはどこに行った?

ひらめいたサリー

 

ものすごく近くにいる気がした。サリーの頭上だ。

(なるほど、俺の頭上にいるってわけか。それでまた尻が……)

 

そこにあったのはブランケットのみでした

見上げてみると、そこにはブランケットが、宇宙船の天井の格子に引っかかってぶら下がっているだけだった。

スイカはいない。

サリーは、自分からは見えないところでスイカが引っかかってでもいるのではないかと疑い、席についたままブランケットの下だのナナメ下だのからにおいをグイグイ嗅いでみたが、スイカのにおいはわずかな残り香のみだった。スイカはいない。ここにスイカはいない。いないと言ったらいない。

 

「ぐあっ……外した……恥ずかしい」

恥ずかしいとか何とか言っている場合でもない気がしたが、サリーはつい言葉を漏らした。スイカのにおいそのものよりも、ブランケットについた自分のにおいのほうが存在感が強く、スイカのにおいを追うことが難しかったのだ。

 

「私はいったい、今どこにいるのでしょうか」

遠くからスイカの声がした。やっと目を覚ましたらしい。

「それは俺のほうが聞きたい。オマエ今どこにいるんだよ」

サリーは宙に向かって大きめの声で言った。

「暗くて何も見えません」

「においは」

「わたくしには鼻がありませぬ。サリーさんアナタ、何というムチャを言うのです」

「お、俺か?」

そう言われればスイカには鼻がなかった気がするが、不条理なスイカのことだから、鼻がなくてもにおいを感じ取れるような気がしてしまっていたサリーだった。

 

「何やら赤いものが見えます」

「あか……」

サリーには赤がどういう色なのかわからなかった。クイスたちが、黒っぽいものを「赤」と呼ぶことがあるが、黒っぽいものをそのまま「黒」や「灰色」と呼ぶこともある、とサリーは思っていた。深く考えたところで混乱するだけなので色に関しては気にしないことにしていた。

 

このままではらちが明かない。サリーが一番自信を持っている嗅覚をスイカは持っていない。そうかと思えば、サリーが判別できない色をスイカは手がかりとして教えてくる。何というかみあわなさだ。サリーはスイカに尋ねた。

 

「今どんな感じだ?」

「どんなとおっしゃいますと」

「居心地いい? 悪い?」

「特に不満はございません」

「じゃあ、いいか」

「そうですね。あっ、シャッターのようなものが開きました。窓があります。外が見えてわたくし、たいへん楽しいです」

 

このままスイカをしゃべらせていれば、声の位置で居場所を特定できるかもしれない。しかし、サリーとしてはこれ以上外すのはごめんだった。それよりもスイカが言った言葉が引っかかった。

 

(『シャッターが開いた』?)

サリーはその情報から、スイカがいる場所を理解した。

窓の外にくぎ付けのスイカと、ピンときたサリー

 

(ハマり編9話につづく)