スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編6話「鍋」

「しかし、見れば見るほど壮観ですね……」

サリーの手であっさり救出され、モップもほどかれたスイカが、部屋の中を見渡して言った言葉がそれだった。

 

「開かずの間にこんなに格子をしまってるとは……変態だね」

「なんでだよ。特に開かずの間でもないし。誰でもどうぞ」

「格子しかない部屋にどうぞって言われても」

 

屋上から逆さに顔を出したクイスと部屋の中から会話しているサリーから離れ、スイカはゴロリゴロリと転がってみた。すると、部屋の中の格子が積まれた一角から離れたところに、格子ではない何かがあることに気づいた。 

気づいたスイカ

 

「こ……これは……!」

「ん? 何? 何か面白いもんでもあった?」

クイスが、屋上から逆さに出した顏をスイカのほうに向けた。

「あ、それは……!」

サリーは一瞬慌て、その次の瞬間あきらめた。

端末EVYを操作すると、設計アプリを起動して、スイカに見せた。

「こういうのを作ろうと思ったっていう、そんだけ」 

ユーフォー型お掃除ロボット

 

それは、掃除機だった。

 

いや、何なのかよくわからない形だが、アプリの画面には「お掃除マシン ゆーふぉーくん」と書いてあった。特に小型ではない。むしろ大きい。完成すると、ふだんサリーが使っている自動お掃除ロボットよりもおそらく大きくなるであろう。完全に、掃除の効率よりも見て楽しむことを優先したマシンだった。

 

「お掃除マシンですか」

「……を、作ろうと思ったんだけどよ。床の汚れがオマエに直でついてたから。でももう必要ないようだな」

「なぜです」

「このモップみたいなの巻きつけてオマエがゴロゴロ転がったりしたほうが早いだろ」

「何と言うことでしょうか……! ゆーふぉーくんが、クイスさんが持ち込んだモップのようなボロ布に負けた……!」

「負けてない」

「ですがわたくし、正直ゆーふぉーくんにお掃除してもらうよりも、自分にモップを巻きつけてゴロゴロするほうが楽しいです」

「負けたね」

何も言えないサリーに、クイスが追い打ちをかけた。

 

「ありえねえ、俺のマシンよりモップのようなボロ布がいいとか、ありえん」

ぶちぶち文句を言うサリーと、ゴロゴロ転がるスイカが屋上に戻ってきた。

 

「それでですね、わたくしサリーさんと公開日誌をやっていると言ったでしょう、クイスさん」

「ああ、言ってたね」

「サリーさん、クイスさんに見せてお上げなさい、私たちのアカを」

「っつってもまだ何も書いてないだろオマエ、なんでそんな偉そうなの……」

文句を言いつつ、サリーはスイカに言われるまま、端末EVYで日記のサイトをクイスに見せた。

 

「ああ……そうだった……。サリーのこの1行日記を見て、俺はスイカが食べられると思って……ものすごくドキドキワクワクして……」 

悲しみのクイス

またクイスの目に涙が溜まり始めた。

サリーは慌てて言った。

 

「お、オマエもやらないか?」

「やりましょうよ、クイスさん!」

特にサリーと何か決めていたわけではなかったが、その場のノリだけで適当にクイスを勧誘しはじめるスイカだった。

 

「やるって日記を?」

「公開日誌ですよ、クイスさん!」

「公開日誌って、あの?」

「の、ようなもの」

「公開日誌って宇宙船の航行中に書くやつだよね?」

 

クイスの言う通りだった。

 

辺境の星と公開日誌

3020年、地球に生まれた生き物が太陽系を飛び出す時代、宇宙船はかつての自家用自動車のような存在になっていた。

 

サリーが今日買いだしにでかけたように、日常で使う消耗品を手に入れることはこの星の中だけでもできる。しかし、日用品以外のものを手に入れることや、医療などにおいては、ほかの惑星に頼っているのが現状だった。この辺境の星では、店や施設、そしてそれらを運営する生き物たちが、まだまだ足りていないからだ。宇宙船はこの星に住む者には必須だった。

 

というよりも、宇宙船がなければ、この星に住むことすらできない。サリーもクイスも、自分たちが生まれた星から自分で調達した宇宙船を駆り、この星へやってきた。

 

宇宙船の航行中は、宇宙管理局との通信が義務づけられている。

しかし、大昔、宇宙の航行が一般的になり始めたころ、航行者の家族など宇宙管理局外の者たちが、航行がうまく行っているのかどうかを確認しようにも、法外な通信費がかかった。それゆえ、サリーやクイスのような一般宇宙航行者は航行中に日誌を書いて、宇宙ネットを使って公開しておくのが常識になっていた。

 

書く側は航行ルートごとに定められた基地に日誌を公開し、読む側も基地にアクセスして読む。双方が同時に通信するよりも、そのほうが当時は安価だった。

 

通信費が落ちついた今となってはあまり意味はないが、宇宙船はだいたい自動で航行するため航行者はヒマだということと、やはりいくら安全とは言っても少し不安になる、という理由から、慣習は廃れなかった。そうして公開した日誌を、一般的に公開日誌と呼んでいた。

 

「『航海』日誌の宇宙版って意味だよね、もともと」

「実際宇宙船に乗ってるわけじゃねえから、公開日誌じゃおかしいかな」

「うーん、いいんじゃない? やってもいいけど、俺ら、何を書くの?」

「身の周りに起きた出来事を、つづるのですよ……!」

スイカが妙に思い入れたっぷりに言い切った。

「つ、つづるのですか」

「別に書くことなかったら無理して書かなくても……」

「ロシュに」

クイスはそこで一つ呼吸をはさんだ。

 

「おっ?」

「ロシュにメッセージを書いても……いいのでしょうか」

なぜか敬語になりながらクイスは尋ねた。

「おいおい、こんな日記でお前のポエムとか」 

きっぱりスイカ

「いいのではないでしょうか!」

スイカはサリーをさえぎって言い切った。いいらしい。

 

少しほほを赤らめ、そわそわしはじめたクイスをよそに、サリーは屋上のきいきい音がする扉のネジを締め、音がしないようにしてから扉を閉じ、スイカが掃除したプールの水を抜きゴミを袋に集め、そのゴミ袋を持ってリフトに乗った。

 

「どう考えても俺だけ仕事多くねえか」

「そういう日もありますよね」

「うふふ」

クイスは薄く笑った。サリーとスイカは顔を見合わせた。

3者同時にリフトに乗りこみ、ギュウギュウ詰めになりながら、サリーとスイカとクイスは地上に降りた。

 

「覚えてろよ。次こそすげーマシン作ってぎゃふんと言わせるから」

クイスが帰ってから、リビングでサリーはぶつぶつと言った。 

ぶつぶつリビング

 

スイカはサリーが買ってきてくれた植物用栄養剤『プラッパ』を薄めたものをストローでチューチュー飲んでいた。いくら常識を超えたスイカでも、植物用栄養剤は少量ずつ摂取しないと何かがやばいということで、サリーが適宜薄めたものだ。

 

チューチュー音を立てていたスイカが、日記帳に目をやった。

「あ、クイスさんのアイコンが」

公開日誌のアイコンが増えていた。そしてもう1つ。

「こちらがロシュさんですか?」

「ああ。……勝手にアイコンでロシュの顔載せて大丈夫か、アイツ?」 

ヒト型ロボット、ロシュ。ブレザーとネクタイを着用しています

「ロシュさんは人間……ですか? ロボットですか?」

「AIを搭載したロボットだとさ。製造がいつだっけ、確か西暦2200年代だとか言ってたような。そのくらいの時代に人間が作ったんで、ヒトを模した型なんだとか何とか」

 

『ロシュ

はやくもどってきて

君の居ない毎日は

俺にとっては

あなのあいたスポンジのよう』

 

突然、日記帳にポエムが表示された。

 

「これがクイスさんの日記なのでしょうか」

「だなあ。ああ、やっぱりアイツ、日記にポエム書くタイプだったんだな」

「穴の開いたスポンジって何でしょうか」

「さあ……つつきがいがないとかそういう意味なのかなあ、キツツキ的な表現なんだろうか……。アイツもはやキツツキとはいえない気がするけどな。宇宙船解体できるほどクチバシ硬いし、空飛べねえし、言葉しゃべるし、洋服着てるしな。それ言ったら俺もイヌじゃねえし、オマエもスイカじゃねえだろっつう話だけど」

「私はスイカです、スイカだといったらスイカです!」

「ああそう……」

ため息まじりに言うと、サリーはキッチンのカウンターの向こう側に歩いていった。

 

スイカは興奮していた。イスからバビョーンと跳ね、スタッとキッチンカウンターに飛び乗った。

「私もつづらねば……! クイスさんがさっそく日誌をつづっているのです! 私もつづらなくては、まずは昨日書ききれなかった分の日誌から!」

「え、昨日のをまだ書いてんの? 昨日のはもうよくね? 今日からでも」

「いいえ、昨日からです! 昨日はわたくし的に興奮することがてんこ盛りでしたから!」

「あ~……そうか」

 

そう言われれば、なぜ屋上に突然スイカが落ちてきたのか、経緯がよくわかっていないままだった。そのことを思いだしたサリーは、スイカが日記を書けばその辺がスッキリ丸わかりになるのだろうと思った。

 

「というわけで私もがんばって書きますよ~!」

「俺、腹減った。メシ作って適当に食ってるわ」

サリーとスイカは同時に言った。そして、スイカが飛び跳ね、空中で1回転し方向転換してカウンターから降りようとした瞬間と、サリーが棚から鍋を取りだしてキッチンカウンターを振り返ったのも、同時だった。

 

すぽっ。

 

鍋にハマるスイカ

そんな音はしなかったが、そんな音がしそうな感じで、スイカは鍋にハマった。

 

「えっ、あれっ?」

「何するんですかあ、サリーさぁん」

「え、あ、わりい、え、これ俺? 俺か?」

「サリーさんですよ、何ですかもう、出してくださいよもう」

しゃべるたびに鍋の中で尻が揺れた。

 

「しゃべるたびに尻が揺れてる」

思わずつぶやくほど尻だった。

「だから、スイカの尻って何ですか」

ハッとサリーは我に返った。

鍋からスイカを外さないと、メシが食べられない。

とんでもなく空腹だったサリーは、荒技を使うことにした。

 

(ハマり編7話につづく)