スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編4話「巨大ナット」

毎回ハマるお約束を自分に課しているのか……?

 

サリーさんの疑惑

 

毎回って何だ、何だそのメタ発想は、とサリーはその考えを振り払った。

しかし……。

3回目だ。1日に、いや、出会ってから今までの短時間に3回もハマるとなったら、わざとやっていると疑いたくもなる。

しかし……。

何のために?

何のためにそんなばかばかしいことを?

 

ばかばかしすぎる。サリーはそのモヤモヤも振り払った。輪郭がブレて見えるほどもがくが、まったく脱出できないスイカに手助けをしようと、乾いた側溝に足を踏み入れた。今度は簡単に救出できた。よし、と満足したサリーだったが、スイカはサリーに抱えられたまま力なく問いかけた。

 

「今……今何時ですか……?」

「あ。うん。まあ……日付変わったな。0時2分」

「昨日の日記を書きあげられませんでした、がくり……」

「まあ、もう遅いし。今日はもう寝よう」

はたしてスイカに睡眠が必要なのかどうか、必要だとしてもどれくらいの時間が必要なのかよくわからなかったが、サリーはそう言ってみた。

家の中に入ろうとスイカを抱えたまま玄関に向かっている途中で、サリーは自分の服が土埃で薄汚れていることに気づいた。スイカの汚れだった。側溝に落ちたスイカは土ボコリにまみれていた。この辺境の星の特徴でもある、ドス青い土によるドス青い土ボコリだった。

 

「そういえば」

またもやシャワールームでサリーに汚れを洗い流してもらいながら、スイカは聞いた。

「あの音は何だったのですか? クイスさんというのはいったい……」

そこでいったんスイカは言葉を切った。サリーに、シャワーをバシバシ当てられ始めたからだ。

 

「クイスは解体業者だな。解体で出た機械の廃品をよく俺にも分けてくれててさ。さっきの音は機械を中庭に置いた音だと思う」

今までなかった機械が置いてあったしな。いつもいつも、アイツ連絡しないで来るんだよなあ、まったくよう。まあ、別にいいけどな。俺もいちいち連絡しねえしな。まあ、今日はもう遅いってのもあったのかな、今回の引き取り代のこともあるし、明日か明後日か、そのうちここに来るだろ、とその後もサリーは言葉を続けていた。スイカはその辺りでようやくシャワーから逃れ、やっと言葉を返すことができた。

 

「機械を分けてもらうのですか?」

「俺は本業がメカニックなんだけども、副業で廃品回収もやってるから」

「ほうほう。なるほど。めかにっく……機械の整備をするお仕事ですか?」

「おう。組み立てもやるぞ。よし、キレイになった」

ぽん、とスイカの頭に、いやスイカの頭って何だという感じだが、サリーはスイカの頭に手を乗せた。

 

「シャワーありがとうございました。では私は寝ます。明日こそは日記を書きあげます。ではごきげんよう、おやすみなさい」

「お、おやすみ」

何となくフラグを自ら立てている気がしたが、指摘するとますますフラグ感が増すだろうと、サリーはツッコミたい気持ちをぐっと抑えた。

そして風呂場でむなしくひとりごちた。

「明日こそは日記書けるといいよな……うん……」

 

翌日。

リビングにあったイスでぐうぐうすやすや眠ったスイカは朝から元気いっぱいだった。

「ぐっもーにん、サリーさん!」

 

元気よくおはよう!

 

「も、もーにん……。あ、オマエ、メシ食わなくていいの?」

「水を飲めば動けます」

「何で動けるの?」

「私に聞かないでください」

たしかに、何で動けるのかと問われても、サリーだって答えられない。

「ですが、贅沢なのかもしれませんが、アレが欲しいです私」

「おっ、何だ? スイカの贅沢って何だ?」

単なる好奇心でサリーは聞いてみた。

 

車輪付き移動マシーンで買い出しに出かけるサリーさん

 

「植物用栄養剤」

古い車輪付き移動マシーンを走らせながらサリーはつぶやいた。買いだしのついでにスイカに買って帰ってやろうかな、と思ったのである。

 

サリーが買いだしに出かけた。

帰ってきたら昨日クイスが届けにきた機械を解体する、と言っていた。スイカは手伝う気満々だった。

しかしそれよりも前にやることがあった。

掃除だ。プールの掃除をすると約束したのだ。

 

まずはデッキブラシとバケツを持って……、ではなくて、念力で浮かせながら屋上に移動しなくては。スイカは、サリーが昨晩、玄関に置いたデッキブラシ&バケツに向かってリビングをゴロゴロ転がった。

 

玄関わきに置いたバケツとデッキブラシ

 

 

そして玄関につくと、念じた。

動くがいい……!

プールを洗浄せしブラシ&それを補助せしバケツよ……!

 

大昔、今より1000年ほど前の西暦2000年ごろの地球で存在したという、「中二病」っぽく念力を発動しようとしたが、どうにも語彙が足りなかった。何かが違う呪文をとなえてみたが、それでも念力は発動した。発動しようと思えば発動するらしい。発動条件がゆるくてよかった。

まずはリフトまでこのブラシ&バケツを運ばないと。スイカはプルプルしながらそう思った。

 

サリーの家の、屋上と地上をつないでいるリフトは、途中、建物の2階部分でいったん止まれるようにもなっていたが、今日のスイカはノンストップで屋上まで行くつもりだった。家の内側から屋上に出ることもできるようだったが、そのためには封印の間を通らなければならない。いや、封印されてはいないのだろうが、入っていいのか悪いのか不明なドアには、あまり近づきたくないスイカだった。

 

サリーハウスのリフトに指示を出すスイカ

 

スイカはリフトにブラシ&バケツを下ろすと、自分もゴロゴロ乗り込んだ。リフトの床部分についたパネルに向かって、音声で指示を出す。

 

「屋上へGO!」

 

静かにリフトが上がり始めた。スイカは緊張した。この家は、サリーが建てたようだ。なぜそう思うのかというと、ほかの星でよく見かけるような造りの家ではなかったからだ。

 

リフトに手すりはあるものの、四角い床板に対して2辺にしかついていない。少し足を踏み外せば、乗っているものは簡単に落ちるだろう。この家の造りから感じる思いはただ一つ。

 

まあ、俺が落ちなければいいか、雑でも。

 

サリー基準でできた家。おそらくスイカが暮らすことは想定外だろう。動くスイカを自分以外に見たことがないので、スイカが想定外なのは当たり前のような気もしたが、とにかく気を引き締めるスイカだった。

 

この辺境の星は、辺境に位置するせいなのか、あまり人気がなかった。にんきもないし、ひとけもなかった。人以外からも人気がなかった。

住んでいるものが少ないこともあり、ルールが明文化されておらず、建築法のようなものも存在していない。だからこんなサリーハウスでも違法ではなかった。

 

(違法ではないといっても……落ちないよう気をつけなければ!)

 

そんなことをスイカが思っていると、下のほうから声がした。

「サリー、いるのか?」

ハッとして、リフトの上からスイカは問い返した。

「サリーさんのお客さんですか?」

 

リフトから体を乗り出すスイカ

 

スイカは声の主の姿を見ようと、リフトから身を乗り出した……はずみで、リフトの床からスイカの体が離れた。

 

ふわり。

 

軽く浮くような感覚がして、スイカは動転した。

 

動転して回転した。

 

動転しつつ回転

 

空中でスイカが急速に回転しはじめ、回転しても落下は防げずに、スピンのかかった豪速球スイカはそのまま地面に向かって加速した。

 

どっすうううん……!

 ギュルギュルギャリギャリ!

 

音とともにスイカの加速は止まった。

 

「お、おい、大丈夫か」

「ふぁい」

 

巨大なナットにハマる

 

声の主はスイカの尻の方向から声をかけた。

「尻丸出しだけど」

思わずつぶやくほど尻だった。

 

「どなたか存じませんが、助けてください」

 

スイカは落下の勢いで、サリーの廃品置き場の大きなナットにハマっていた。なぜこれほど巨大なのか、巨大なものに使われたナットなのか、それは巨大ロボなのか、いや、巨大ロボってナット使ってるの? などなど、見るものを何かとモヤモヤさせるナットだ。昨夜スイカは暗くて気づかなかったが、そのような巨大ナットがサリーの廃品置き場に軽はずみに放置してあったらしい。

 

「あ、ああ……ん? あれほどの勢いでナットにハマったのにスイカの表皮に傷ひとつないね」

「いやあ、照れますね」

「特に褒めてない」

そう言うと、声の主はスイカの表皮の硬さを確かめた。

 

(ハマり編5話につづく)