スイカごっこ

スイカとしてゴロゴロ転がる会

ハマり編3話

すぽーーーーーん!

スイカはやっとバケツから抜けられた。

 

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「は~は~……やっと取れた……」

「出られました! ありがとう、お疲れさまでした」

 

サリーは、バケツにハマったスイカをやっと解放できた。

スイカバケツ、いやバケツスイカを風呂場に持って行き、ぴったりとバケツにハマったスイカとバケツとの間に液体せっけんを流し込みながら、ぬるぬるぬらぬら、おっかなびっくりズルズルスポーンと、バケツからスイカを引き出した。

 

せっけんでぬるぬるしたままスイカは風呂場を転がる。バケツから抜けられたのがうれしいらしい。せっけんが泡立ち、あわあわスイカになった。

 

あわあわゴロゴロびょんびょん。

 

サリーは、ほどよきところでスイカにシャワーを浴びせかけた。薄汚れていたスイカは、適度にきれいになった。

 

「シャワーが終わったら、日記を書かないといけません」

興奮気味に言い残し、スイカは風呂場を出ていった。

開けっぱなしのままだった風呂場のドアからゴロゴロゴロ。足ふきマット……もとい、センサー付き温風乾燥機が設置されたエリアをゴロゴロ転がりながら通過し、その後も止まらずリビングの方向にゴロゴロ転がっていった。

 

「あ~あ~……せっかくキレイにしたのに」

サリーは、風呂上がり0.1秒後に薄汚れ始めたスイカにため息をついた。

このまま自分もシャワーを浴びてしまおう、そう考えて服を脱ぎ始める。

 

「掃除してても意外とホコリが落ちてるもんなんだなあ……」

室内でも外と同じ靴を履いて行動しているのだから、床が薄汚れるのは当たり前ではあるのだが……、靴を脱ぎながらサリーはそんなことを思った。

サリーはシャワールームのドアを閉めると、脱衣所に置いた端末EVYのホーム画面が映し出された防水ディスプレイに向かって音声で指示を出した。

「設計アプリ起動」

 

サリーがシャワーを終えてリビングに戻ると、スイカは日記帳に向かってプルプルしていた。ペンが宙に浮いたまま、同じようにプルプルしている。

 

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ぷるぷる

 

「なんつう顏して日記を書いてるんだ」

「疲れますねこれ」

スイカは言って、息を吐き出した。宙に浮いて、スイカとともにプルプルしていたペンが床に落ちた。パタリ。

何を書いているんだろう……と興味本位で、持っていた端末EVYから日記のアプリを起動する。

 

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before→after

日記の名前が変わっていた。

 

「おい。俺の日記、乗っ取ってんじゃねえよ」

「いえ、違います。違うのです」

「何がだ」

「日記帳の表紙の裏に書いてあった、サリーさんのお母上からの注意書きを読んだのです。ネット上に日記を上げるときの注意を」

「ああ、写真をみだりに上げるなとかそういうやつか」

 

サリーの母親はネットに厳しかった。本名を出すな、写真を、家族のものも自分のものも上げるな、一度上げたら削除などほぼほぼできないのだから上げるとしても慎重にやれ、云々。

 

誰を警戒してるんだ誰を、こっちは有名でもないそこら辺にいるただの小僧だぞ、と少しバカにする思いがないでもなかったが、サリーは母ルールをなぜかいまだに守っていた。もう実家を出てから何年も経つというのに。そんな自分が悔しいサリーだった。

 

「それでわたくし、恐ろしくなりまして、ネット上をくまなく検索してみたのです」

「お、おう。うちのオカンの独自ルールにそこまでビビらんでも」

「そうしたら、乗っ取りというのがあるらしいじゃないですか」

「オマエがやったやつな」

 

「違うのです、世の中には恐ろしい人たちがいてですね、本人が知らないうちにアカウントを乗っ取るらしいのです」

「おう」

「そしてそのまま自分の都合のいいように使うらしいのです、他人のアカウントを! 本人の了承もないままに!」

「んだから今オマエがやってるのと何が違うんだよ」

 

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「私は正々堂々とアカ名を変えました。サリーさんの日記を見ている人が『乗っ取りではないか』と不安感を感じないように。一緒にやりましょう、サリーさん!」

 

もはやよくわからない。乗っ取りって何だろう。

 

今スイカがやっているのは乗っ取りではないのか?

本人の目の前でやればいいのか?

了承を取ればいいのか?

 

いい気もする。そんな気がしてきた。了承が最後、という順番がモヤっとするというだけのような気もしてきた。

スイカのペースにどんどん巻きこまれていることはサリーにもわかっていたが、どうでもいいような気もした。無料サイトの日記だし。

 

「まあいいけどよ、日記なんてほとんど更新してねえし。オマエ何書くつもりなの?」

「わたくしの日常をば、つづりたい」

「つ、つづりたいのか」

つづりたいのなら仕方ない。思う存分つづらせてやりたい気がしてきたサリーだった。

 

「つづるのはいいんだけど、もうこんな時間だぞ」

「この星の時間は何時切り替えですか?」

「12時だな。夜の12時で次の日に切り替わる」

 

「!!」

 

「お、おい?」

「急がないと! もう11時50分じゃないですか! 今日が終わってしまいますぞ!」

突然じいや口調になりつつ、スイカはペンを再び浮かそうとプルプルしはじめた。

 

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「あ、音声で入力できるぞ、それ。声で日記が書ける」

「早く言ってください!」

なぜ最初から音声入力できることを教えずにわざわざペンを渡したのか。そんなツッコミも省略する大急ぎスイカだった。

スイカは急いで日記帳に向かって今日の出来事を語り始めた。

 

少しのあいだ、ぶつぶつと、朝起きた時間と、朝食として水をたらふく飲んだことを日記帳に語りかけるスイカを見守っていたサリーだったが、書き終わったら見せてもらえばいいか、とその場を離れた。

 

子供ではないだろうし、いやいくつなのか知らないが、そもそもスイカはいくつになれば大人なのかよく分からないが、さらに言えばスイカに子供/大人の概念を当てはめてもいいのかどうかよく分からないが、つきっきりで見ていなくても大丈夫そうだ、という判断をした。

 

サリーは洗濯室に行き、洗濯を始めた。

 

ずどん!

 

突然音が聞こえた。

 

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どこから聞こえたのかは判然としないが、スイカがいたはずのリビングからの音ではない。

サリーは少し考えたあと、そばに置いていた端末EVYをつかんで洗濯室を出た。

 

音がした場所は中庭だと、サリーは見当をつけた。周囲に家などがないせいもあり、どこまでが自分の敷地なのか曖昧ではあるが、サリーは家の周りにある空き地を中庭と呼んでいた。そこはサリーの作業場でもあり、壊れた機械や、巨大なネジやナットがいくつか転がしてあった。

 

暗くて周りが見えないながらも、サリーは中庭に到着した。

 

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EVYのアプリ、懐中電灯を起動して周囲を照らし、自分の考えが合っていたことを確認したサリーは、息を漏らした。ふう。

 

「何の音でしょうか」

サリーの背中のほうから、スイカの声がした。サリーは光を向けようとして、まぶしいかな、と思い直し、上げようとした手を下ろした。そして言った。

「たぶんクイスだ」

「クイス?」

「そういう名前のやつがいるんだよ」

「そのクイスさんはいずこ……ぶふっ」

 

がぼん。

 

スイカの声付近から奇妙な音がした。

「何の音だ?」

スイカの返事はなかった。

サリーは、光をスイカの声がした辺りに向けた。

 

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暗闇の中でスイカの尻が浮かびあがった。

 

サリーの声がするほうへゴロゴロ転がろうとしたスイカが、中庭にあった雨水用の側溝にハマったらしい。しまった、側溝にフタをつけておくんだった、と後悔しつつサリーはつぶやいた。

 

「また尻か……」

思わずつぶやくほど尻だった。

 

サリーに疑念が湧きあがってきた。

 

コイツ、もしや毎回ハマるお約束を自分に課しているのか……?

 

(ハマり編4話につづく)